65名の研究者が、人とサンゴ礁の共生を探る

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海コラム

コラムニスト: サンゴ礁学若手の会

Vol.01 65名の研究者が、人とサンゴ礁の共生を探る

初めて潜ったフィリピンで目の当たりにした変化


大学生の時、スクーバダイビングのサークルに入ってCカードを取り、初めて潜ったフィリピンのサンゴ礁のことは今でも忘れません。そもそもは、高校の生物の先生がダイバーで、授業の中でよく海の話をしてくれたのが、海に興味を持つきっかけでした。高校の先生が話してくれた大学時代のクラゲの研究の話や、ウミホタルの発光実験は、私を海の虜にしました。大学生になり、すぐにCカードを取って、フィリピンにダイビングに行ったこの年は、ちょうど世界規模でサンゴが白化した翌年。私が見た初めてのサンゴ礁は、高水温でサンゴが白化して死滅し、魚は住み場所を失って激減。地元の人は、漁業や観光業では生計が立てられなくなり、親戚が日本に出稼ぎに行くようになったと話していました。サンゴ礁が人の生活に直結していることを知り、サンゴ礁を守るための研究がしたいと、琉球大学大学院に進学してサンゴ礁の勉強を始めました。


サンゴ礁の保全・再生の学術的な基礎を作る


サンゴ礁は、体内に共生藻を持つサンゴ、サンゴを住みかにする魚や貝などの多様な生き物、それら魚介類を食べ物の恵みとしていただく人間など、幾重にも重なる共生のバランスの上で成り立っています。このサンゴ礁の共生のバランスが、赤土や富栄養化などの地域的なストレス、地球温暖化などの地球規模のストレスが複合することで崩壊し、近年、深刻な危機に直面しています。危機的なサンゴ礁を守ろうと、各地でサンゴの移植活動などが行われていますが、そもそもこうした複合ストレスがどのようにサンゴ礁に悪影響を与え危機的な状況に至ったのか、詳細なメカニズムがまだよくわかっていません。
「サンゴ礁学」は、この複雑なサンゴ礁のシステムと複合ストレスの影響を明らかにして、サンゴ礁の保全・再生を進めるための学術的な基礎を作ることを目的に2008年に始まった研究プロジェクトです。「サンゴ礁学」では現在、3つの研究課題を設定して研究を進めています。1つ目は「複合ストレスの評価」。危機的なサンゴ礁の原因となった重要なストレスを明らかにし、さらに過去から現在までのストレスとサンゴ礁の関係を昔の環境情報が記録されている空中写真やサンゴの骨格を分析して明らかにしています。2つ目は「生態系応答の評価」。さまざまなストレスに対してサンゴ礁がどのように応答するのかを明らかにしています。3つ目は「社会システムの評価」。サンゴ礁保全と地域の持続的な発展が両立するための科学的な提案を目指して、現在だけでなく歴史的な観点からも社会経済のシステムを調べています。



文系と理系をつなぎ、研究と地域をつなぐ


まだ、私が大学生の時、研究者ならばサンゴ礁を保全・再生するための解決方法はすでに知っているのではないか、と思っていました。しかし、実際は科学的な根拠に基づいたサンゴ礁の保全・再生策を作るには、明らかにすべきこと、まだ仮説でしかなく証明されていないことが山のようにあります。「サンゴ礁学」では、日本の第一線で活躍するサンゴ礁研究者65名が集まり、分野の壁を超えて議論しながら、人とサンゴ礁が共生するために証明すべきことを一つ一つ明らかにしています。この議論の中でも一番刺激的なのは、理系と文系のバトル。使う言葉が違うのはもちろんのこと、想定する場所の広さは地球規模から地域レベル・細胞レベルまで、時間の長さも現代から何千年前まで(!?)とまったく異なります。
私は「サンゴ礁学」の中で、文系と理系などの異分野の研究者をつないだり、ニュースレターやHPなどを通じて研究成果を発信したり、サンゴ礁地域との意見交換会など地域のニーズをフィードバックして、研究と地域を繋ぐことを仕事にしています。「サンゴ礁学」で出た成果を、実際のサンゴ礁の保全に繋げるために、内外のコミュニケーションを促進していきたいと思っています。



サンゴ礁学事務局へのお問い合わせ
メール:admin@coralreefscience.jp
サンゴ礁学ホームページ


文=浪崎直子(国立環境研究所・「サンゴ礁学」事務局)
琉球大学大学院にてサンゴ礁生態学の分野で修士号を取得。
NPO法人OWS事務局を経て現職。
現在「サンゴ礁学」事務局として、研究の異分野連携や地域連携を担当。
日本サンゴ礁学会評議員・事務局。


【月刊ダイバー2011年8月号に掲載】

「サンゴ礁学とは?」
文部科学省の科学研究費の支援を受けた研究プロジェクトです。人とサンゴ礁が共生する社会を構築するための学術的な基礎をつくることを目的に、生物学・化学・地学・工学・人文社会学など、さまざまな分野の研究者65名が連携して研究を行っています。この連載では、サンゴ礁学の博士研究員や大学院生から成る「サンゴ礁学若手の会」が、それぞれの研究や専門分野における最新の研究情報をお伝えし、サンゴ礁の不思議を調べる研究の醍醐味をお伝えします。


「サンゴ礁を学問する」のシリーズは月刊ダイバーにて、好評連載中です。

ほし店長