ミクロの世界からサンゴの白化の原因を探る

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海コラム

コラムニスト: サンゴ礁学若手の会

Vol.02 ミクロの世界からサンゴの白化の原因を探る

サンゴは透き通った体 茶褐色は共生藻の色


初めて海に潜り、眼下に広がる色とりどりのサンゴやそこに訪れる多くの魚たちに魅了されたダイバーのかたは多いと思います。私もサンゴの研究を始めて以来、海面1つ隔てた先がこんなにも鮮やかな世界であることに驚き、感動を受けています。
さて、さまざま々な色を持つサンゴですが、浅い海でよく目にするサンゴは大半が茶褐色系の色をしていることにお気づきでしょうか。実際目にする色は茶褐色ですが、じつはサンゴ自身はその多くがクラゲやイソギンチャクのような透き通った体を持っており、サンゴの体内に共生している褐虫藻という藻類の色が透けて見えています。褐虫藻は直径約0・01㎜というとても小さな生物で、陸上の植物と同様に太陽の光を受けて光合成を行っています。光合成によって作り出された有機物がサンゴの栄養となり、またサンゴの出す老廃物が褐虫藻の栄養となり、お互いの命を支え合っているのです。サンゴ礁は多くの魚や底生生物たちの共生した楽園と言われていますが、このような小さな生き物たちも複雑な共生関係で生活しているのです。


白化メカニズムの解明に取り組む


皆さんは「白化」という現象をご存知でしょうか。海が好きでダイビングを始めたかたなら一度は耳にしたことがあるかもしれません。白化とは茶褐色に見えるサンゴが色を失って白くなってしまう現象を指します。褐虫藻がサンゴの体内から失われてしまうとサンゴは弱ってしまい、白化した状態が長く続くことでやがて栄養が不足してサンゴは死んでしまいます。
1998年に起こった世界規模の白化によって白化のメカニズムを解明しようと世界中で研究が盛んになりました。これまで白化の原因は、海水温の上昇により褐虫藻がサンゴの体の外へ逃げ出してしまうことであると考えられていました。しかし、海水温の上昇がキーになることは明らかになりましたが、どうして褐虫藻が失われるのか、どうしたら白化したサンゴを治療できるのかといったことはまだ明らかになっていません。
私も沖縄の海で目にしたサンゴ礁の美しさに心を奪われると同時に、多くのサンゴが白化の末に白骨化してしまった群落が広がっているという話を耳にした時にはとても心を痛めました。なんとかして沖縄の海を守っていきたいと考えた私は、サンゴだけでなくその体内にいる褐虫藻に着目し、白化のメカニズムを解明するために研究に取り組んでいます。



褐虫藻はサンゴ体内で死滅する?


こんな小さな生物、いったいどうやって調べるのだろうとお思いでしょう。1つは顕微鏡を使い、褐虫藻の形や数を直接観察します。これは中学や高校の理科の時間に触れたことがあるかたも多いと思います。もう1つは褐虫藻が持つクロロフィルとカロテノイドという色素を利用した分析を行っています。これらの色素は光合成を行う際に光を集める重要な役割を持っており、陸上、海中を問わずすべての植物が持っているものです。色素の種類や量を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)という機械で分析することで、褐虫藻の健康状態がわかります。HPLCでは人の目に見えないほどの小さな変化も明らかにすることができ、これまで知られていなかったサンゴ体内の褐虫藻の状態が明らかになりつつあります。
最近の研究では、高水温のストレスを受けた褐虫藻は、外に逃げていくのではなく、サンゴの体内で死滅している可能性が高まってきました。これまでに観察されていたサンゴ体外への褐虫藻の放出は健康なサンゴでも起こる自然な現象であり、高温ストレスによって放出が増加するということはありませんでした。これらのことは今まで予想されていた白化のメカニズムとは大きく異なる結果です。
しかし、このことから、サンゴの種によって白化の度合いが異なることの説明もできるかもしれません。褐虫藻がなぜサンゴの体内で死んでしまうのか明らかにすることが次の課題です。このようにして1つの事柄を明らかにしたら次のステップへと進み、1つ1つパズルを組み合わせていきます。全体像を完成させて社会に発表するまでにはとても多くの時間と労力がかかりますが、世界でまだ誰も知らないことを明らかにしていくことはとてもやりがいのある仕事であるといえます。



サンゴ礁学事務局へのお問い合わせ
メール:admin@coralreefscience.jp
サンゴ礁学ホームページ


文=鈴木利幸(静岡大学 創造科学技術大学院)
静岡大学大学院理工学研究科にて植物生理学を専攻し博士号を取得。
同大学創造科学技術大学院にて学術研究員としてサンゴの病気のメカニズムの解明を行っている。

【月刊ダイバー2011年9月号に掲載】






「サンゴ礁学とは?」
文部科学省の科学研究費の支援を受けた研究プロジェクトです。人とサンゴ礁が共生する社会を構築するための学術的な基礎をつくることを目的に、生物学・化学・地学・工学・人文社会学など、さまざまな分野の研究者65名が連携して研究を行っています。この連載では、サンゴ礁学の博士研究員や大学院生から成る「サンゴ礁学若手の会」が、それぞれの研究や専門分野における最新の研究情報をお伝えし、サンゴ礁の不思議を調べる研究の醍醐味をお伝えします。


「サンゴ礁を学問する」は月刊ダイバーにて、好評連載中です。

ほし店長