化石サンゴでタイムスリップ

ダイバーオンライン

ダイビングスポットの検索、ダイビングライセンスの取得、ダイビングツアーを探すならダイバーオンライン

twitter facebook DIVERMAG instagram 月刊DIVER

海コラム

コラムニスト: サンゴ礁学若手の会

Vol.04 化石サンゴでタイムスリップ

海面を追いかけるサンゴ礁


サンゴ礁の海に潜ると、色鮮やかなサンゴや魚たちなど、さまざまな生き物を見ることができます。たとえば、砂地の上に海草が繁茂し、ナマコが転がっているのを目にすることがあります。また、塊状や枝状のサンゴの下にはシャコガイやウツボなどが生息していることに気がつきます。
ところで、今、私たちが海の中で見ている風景はいつ頃から出来たのでしょうか。サンゴの下には、いったい何があるのでしょうか。そして、サンゴ礁生態系はこれからどのようになるのでしょうか。このような、「サンゴ礁の過去・現在・未来の姿」を明らかにするために、私はサンゴ礁の海に出かけて研究をしています。
これまでの研究によって、サンゴ礁生態系は地球環境の変動に伴って、ダイナミックにその姿を変えてきたことが明らかとなってきました。たとえば、海面変動はサンゴ礁の形を大きく変える要因の1つです。今から2万年前は最終氷期と呼ばれ、地球が寒冷化し、南極などに氷床が発達していたため、現在よりも海面は100m以上も低下していました。サンゴ礁は一般的に海面付近に発達していますので、もし、当時のサンゴ礁を観察しようと思ったら、100m以上も潜らないといけないの? と思われるかもしれません。しかし、かりに潜水艇で潜ったとしても、そう簡単には発見することができません。なぜなら、古いサンゴ礁は新しいサンゴ礁に埋もれて見えなくなっているためです。これは、最終氷期以降の温暖化によって氷が融けて海面が上昇するに伴い、サンゴ礁も海面を追いかけて上へ上へと成長したため、古いサンゴ礁は新しいサンゴ礁によって埋もれてしまい、見えないのです。それでは、どのようにして、過去のサンゴ礁を知ることができるのでしょうか。


掘削して昔のサンゴ礁を調べる


皆さんは「掘削研究」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。これは、海や湖の底から堆積物を採取し分析することで、過去の地球環境や生物の辿ってきた過程を明らかにする研究分野のことです。現在のサンゴ礁から下へ下へと掘削していくことで、昔のサンゴ礁の姿を明らかにすることができます。掘削研究とは、埋もれていたタイムカプセルを掘り起こすような、エキサイティングな研究なのです。
さて、掘削した試料を観察すると、化石になったサンゴをはじめ、星砂や太陽の砂などで有名な有孔虫、二枚貝や巻貝の殻、さらには石灰質の藻類やウニなど、さまざまな造礁生物がすきまなく積み重なっていることに気がつきます。これらの試料を手に取れば、当時の海岸線やサンゴ礁の姿をかいま見る、タイムスリップを楽しむことができます。このように、私たちが見ているサンゴ礁生態系は長い年月をかけて造られてきたことがわかってきました。さらに、今のサンゴ礁の形は、およそ6000〜4000年前にほぼ完成していたことがわかってきました。なぜなら、2万年前から上昇し続けていた海面は、6000〜4000年前に現在とほぼ同じ高さになったため、サンゴ礁はそれより上へと成長できなかったためです。



地球温暖化でサンゴ礁はどうなる?


これまで、数千年間にわたって大きく形を変えなかったサンゴ礁ですが、今後は大きく変化する可能性があります。なぜなら、地球温暖化によって気温が上昇し氷が融ければ、海面は再び上昇し、それに伴ってサンゴ礁も上へ上へと発達していく可能性があるためです。そこで、私は掘削試料を分析し、過去の海面上昇とサンゴ礁のデータをもとにして、数百種類生息しているサンゴの中でも、どのサンゴが鍵となってサンゴ礁が形成されていくのか、将来予測を行う研究を始めています。たとえば、沖縄ではコユビミドリイシなどが鍵となるサンゴではないだろうかと考えていますが、世界各地のサンゴ礁からデータを収集し、検証しているところです。
これからはサンゴ礁が大きく変化するのではないかと楽しみにしながら、サンゴ礁の海で泳いでいますが、いっぽうで、現在のサンゴ礁は高水温ストレスなど、さまざまなストレスを頻繁に受けていますので、このままではサンゴ礁生態系が持つポテンシャルをじゅうぶん発揮できないのではないかと危惧もしています。そのため、掘削試料から過去のサンゴ礁と地球環境との関連性を明らかにし、サンゴ礁生態系の維持・保全・管理に向けた提案と、人とサンゴ礁との共存・共生のために研究を進めていこうと思います。



サンゴ礁学事務局へのお問い合わせ
メール:admin@coralreefscience.jp
サンゴ礁学ホームページ


文=本郷宙軌(国立環境研究所 生物・生態系環境研究センター)
東京大学大学院理学系研究科にて地球惑星科学を専攻し博士号を取得。
同研究科特任研究員を経て、現在、国立環境研究所にて特別研究員として
サンゴ礁生態系の地球温暖化応答などに関する研究を行っている。


【月刊ダイバー2011年11月号に掲載】



「サンゴ礁学とは?」
文部科学省の科学研究費の支援を受けた研究プロジェクトです。人とサンゴ礁が共生する社会を構築するための学術的な基礎をつくることを目的に、生物学・化学・地学・工学・人文社会学など、さまざまな分野の研究者65名が連携して研究を行っています。この連載では、サンゴ礁学の博士研究員や大学院生から成る「サンゴ礁学若手の会」が、それぞれの研究や専門分野における最新の研究情報をお伝えし、サンゴ礁の不思議を調べる研究の醍醐味をお伝えします。


「サンゴ礁を学問する」は月刊ダイバーにて、好評連載中です。

ほし店長