八重山では、いつからサンゴ礁が利用され始めたのか

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海コラム

コラムニスト: サンゴ礁学若手の会

Vol.09 八重山では、いつからサンゴ礁が利用され始めたのか

琉球列島のサンゴ礁に考古学的アプローチ


「干瀬はさながら一条の練絹の如く、白波の帯を以て島を取巻き、海の瑠璃色の濃淡を劃して居る。」(柳田国男1925年「干瀬の人生」『海南小記』)
かつて沖縄を訪れた民俗学者・柳田国男は、サンゴ礁をこのように表現しました。海面ギリギリまで発達したサンゴ礁は外海のうねりを鎮め、砕けたサンゴやサンゴ礁に生息する有孔虫が白い砂浜を形作ります。こうして出来た砂浜に人々は居住し、エメラルドブルーに輝くサンゴ礁の内海では、さまざまな海の幸を捕獲することができます。
人とサンゴ礁の関わりは多岐にわたりますが、その関係はいつ頃から始まり、そしてどのように変化してきたのでしょうか。これらを明らかにするため、私は八重山諸島石垣島を中心に考古学的研究を進めています。かつて人間が暮らした痕跡である遺跡を発掘すると、土器や石器とともに、食料として利用した後に廃棄された魚介類や動物の骨がたくさん出土します(写真上)。サンゴ礁に生息する生き物が、土の中から姿を現す様は不思議な光景です。こうした遺物や遺跡の位置から当時の資源利用をかいま見ることができます。


2万年前の遺跡はサンゴ礁と無縁?


近年、白保竿根田原遺跡と呼ばれる洞穴で発掘が行われ、約2万年前の人骨が出土しました。その後しばらく石垣島では遺跡が見つからず、次に見つかるのは約4000年前からとなります。ところが、サンゴ礁の魚介類は約2万年前の遺跡から出土しません。当時の人々はサンゴ礁に見向きもしなかったのでしょうか?
石垣島に最初の人類が登場した約2万年前は最終氷期と呼ばれ、南極などに氷が閉じ込められ、海面の高さは今より100m以上低下していたと考えられています。その後、温暖化によって氷が融けて海面が上昇し、今私たちが目にする場所にサンゴ礁が形成されたのは、石垣島では約5000年前以降ということがわかってきました。このことから、現在ではサンゴ礁の発達した沿岸に位置する白保竿根田原遺跡の眼前には、そもそもサンゴ礁が存在しなかった可能性が高いといえます(図)。その後、約4000年前以降の人々によって、新たに追加されたサンゴ礁という環境が利用され始めたと考えられます。


遺跡の立地との関係性を探る


サンゴ礁からは多様な魚介類がとれるだけでなく、高波を防ぐ役割も果たします。ただし、島内のサンゴ礁は地域ごとに発達度合いが異なります。であるならば、こうしたサンゴ礁発達の地域差が遺跡の立地に関係していた可能性が浮かびます。しかし、私のこれまでの研究から、どの時代においてもサンゴ礁発達地域と未発達地域の両方に遺跡が分布していたことが明らかとなりました。また遺跡からは、サンゴ礁やマングローブ湿地の魚介類や陸域のリュウキュウイノシシなどが出土します。こうした遺跡の立地と出土する遺物から、サンゴ礁の形成以来、石垣島の人々はサンゴ礁を含む多様な島の環境を利用しながら暮らしてきたと考えられます。
遺跡出土貝類にクローズアップしてみると、サンゴ礁岩盤に孔をあけて生息するヒメジャコ、サンゴ礁外縁部に分布するサラサバテイ、チョウセンサザエなどが目につきます(写真上)。当時の人々がサンゴ礁のさまざまな場所へと、魚介類を捕まえにきていたことがわかります。また、遺跡からは加工された貝の製品も出土し、サンゴ礁が生活に必要な道具の原材料を獲得する場としても利用されていたことを物語っています。
ただし、八重山諸島には石垣島とは大きさも自然環境も異なる島々が存在します。たとえば、西表島や波照間島の遺跡とサンゴ礁の位置関係は石垣島と同じなのか? 興味深い課題です。
このように、数千年前から現在へと続く人とサンゴ礁の関係をよりよく把握し、共存・共生のための研究を進めていくには、サンゴ礁発達の歴史を調べるとともに、南国の太陽が照り続ける中、汗と泥にまみれて土を掘る仕事が重要となります。


サンゴ礁学事務局へのお問い合わせ
メール:admin@coralreefscience.jp
サンゴ礁学ホームページ


文=小林竜太(慶應義塾大学大学院・文学研究科・後期博士課程)
慶應義塾大学大学院にて史学(民族学考古学分野)を専攻し修士号を取得。同大学院後期博士課程にて八重山諸島の先史時代資源利用について、サンゴ礁発達の地域差と遺跡の立地に着目しながら研究を行っている。


【月刊ダイバー2012年4月号に掲載】







「サンゴ礁学とは?」
文部科学省の科学研究費の支援を受けた研究プロジェクトです。人とサンゴ礁が共生する社会を構築するための学術的な基礎をつくることを目的に、生物学・化学・地学・工学・人文社会学など、さまざまな分野の研究者65名が連携して研究を行っています。この連載では、サンゴ礁学の博士研究員や大学院生から成る「サンゴ礁学若手の会」が、それぞれの研究や専門分野における最新の研究情報をお伝えし、サンゴ礁の不思議を調べる研究の醍醐味をお伝えします。


「サンゴ礁を学問する」は月刊ダイバーにて、好評連載中です。

ほし店長