サンゴの精子と卵の認識

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海コラム

コラムニスト: サンゴ礁学若手の会

Vol.11 サンゴの精子と卵の認識

多くの種の配偶子が入り交じる一斉産卵


毎年、夏の始まり付近になりますと、サンゴ(おもにミドリイシ類)の一斉産卵のニュースが新聞やTVで流れます。幻想的なサンゴの産卵シーンは、桜の開花や紅葉のように、風物詩となっています。そんなサンゴの一斉産卵にはまだまだ謎が多く、サンゴ研究者にとっても重要な研究課題の1つとなっています。その謎の1つが、サンゴの精子と卵がどのようにお互いを認識するのかという疑問です。今回は、サンゴの精子と卵の認識のメカニズムに関する研究について、簡単にご紹介したいと思います。
 サンゴ礁の基盤を形作るサンゴは、初夏の満月付近の数日以内に多くの種が一斉産卵を行い、多くの種の配偶子が海面上で混じり合います。この際、同じ種同士の配偶子だけでなく、違う種同士の配偶子が受精して雑種ができることもありますが、同じ種のみでしか受精が行われない場合も多く見られます。そのため、種が違えば、配偶子認識にも違いが見られる可能性があります。造礁サンゴの代表であるミドリイシ類は、現在100種以上が報告され、サンゴの中でもっとも多様化しています。このミドリイシ類がどのように多様化したのかを理解することは、サンゴ研究者にとっても重要な課題となっています。私自身もこの課題に興味があり、その種分化の要因の一つとして、配偶子認識機構の変化、すなわち受精に関わる遺伝子の変異が関与しているのではないかと考え、調べてみたいと思いました。


受精に関わる遺伝子を探す


ところが、これまでミドリイシ類はおろか、サンゴやイソギンチャク、クラゲのグループである刺胞動物全般においても、受精に関わる遺伝子の報告がまったくないのが難点でした。しかし2003年に、オーストラリアのグレートバリアリーフで普通に見られるハイマツミドリイシにおいて、世界で初めて、サンゴの遺伝子データベースが構築され、受精および様々な機能にかかわる遺伝子を単離して解析できる道が開かれました。そこで私自身も、受精とミドリイシ類の種分化との関わりを調べるために、この遺伝子データベースを活用してサンゴの受精に関わる遺伝子を見つけることに取り組みました。
 最初に注目したのが、哺乳類の受精において、精子と卵の膜の結合と融合に関わるとされる、「インテグリン」と呼ばれる遺伝子でした。調べた結果、インテグリンとその役割をサポートする遺伝子が複数、サンゴの遺伝子データベースの中からも見つかりました。これらの遺伝子を詳細に調べた結果、インテグリンを含む、哺乳類の受精に関わる遺伝子によく類似し、かつ卵で発現している4遺伝子が、受精に関わっている可能性が高いと推測されました。


種分化の秘密を握る遺伝子は?


この4遺伝子のうちの1つ、インテグリンベータの抗体を用いて、受精時にインテグリンベータの機能を阻害させると、受精そのものも阻害されたことから、インテグリンベータがサンゴの受精に関わっている可能性が示唆されました。しかし残念ながら、このインテグリンベータをサンゴの種間で調べてもあまり違いは見られませんでした。今後、インテグリンベータの役割をサポートする他の遺伝子が変異している可能性があると考え、調べていく必要があります。
 また昨年、沖縄島周辺で普通に見られる、コユビミドリイシの全ゲノム解読に成功したとの研究成果が、沖縄科学技術大学院大学の研究グループから報告されました。今後、コユビミドリイシの遺伝子データベースも活用することで、サンゴの受精に関わる遺伝子群が網羅的に調べられ、サンゴの受精および種分化の秘密が解き明かされることが期待できそうです。


サンゴ礁学事務局へのお問い合わせ
メール:admin@coralreefscience.jp
サンゴ礁学ホームページ


文=井口 亮(琉球大学熱帯生物圏研究センター・日本学術振興会特別研究員)
オーストラリアのJames Cook Universityにて生物学を専攻し博士号を取得。琉球大学熱帯生物圏研究センターポスドク研究員を経て、現在は同センターにて腹足類や棘皮動物、サンゴなどの海洋ベントスの生態と進化の研究に従事している。


【月刊ダイバー2012年6月号に掲載】









「サンゴ礁学とは?」
文部科学省の科学研究費の支援を受けた研究プロジェクトです。人とサンゴ礁が共生する社会を構築するための学術的な基礎をつくることを目的に、生物学・化学・地学・工学・人文社会学など、さまざまな分野の研究者65名が連携して研究を行っています。この連載では、サンゴ礁学の博士研究員や大学院生から成る「サンゴ礁学若手の会」が、それぞれの研究や専門分野における最新の研究情報をお伝えし、サンゴ礁の不思議を調べる研究の醍醐味をお伝えします。


「サンゴ礁を学問する」は月刊ダイバーにて、好評連載中です。

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