サンゴの気持ちを考える

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海コラム

コラムニスト: サンゴ礁学若手の会

Vol.12 サンゴの気持ちを考える

なぜサンゴは白化するのか?


サンゴの白化という現象は、これを読んでいる多くのかたがご存知のことと思います。高温などのストレスによって、サンゴが自身の細胞内に共生している茶色い褐虫藻を放出もしくは分解・消失したことによって色白なサンゴ本来の色に戻ってしまう現象で、それが原因でサンゴが死に至ってしまうケースも多々あります。しかし、褐虫藻自身が正常なサンゴの細胞膜をぶち破ってサンゴの体外に出ることはまず不可能ですので、白化はサンゴが褐虫藻の放出や消失を自発的に行っている生理(?)現象ということになります。
では、なぜサンゴは白化を起こしてしまうのか? という疑問が次に生まれてきます。そこで、今回はサンゴが白化を起こす行動原理について考えてみたいと思います。タイトルを「サンゴの気持ちを考える」としましたが、私は決してサンゴLoveのアブない人間ではありません。いたってロジカルに白化をサンゴの立場に立って考えてみようというお話です。


サンゴの損得勘定


サンゴは体内で飼っている褐虫藻が光合成によって生産した有機物の一部をもらって生活しています。サンゴは共生藻の獲得によって大きなエネルギー源を得て、高い成長速度を維持することに成功しています。しかし、何事にもリスクは付きもので、褐虫藻は光合成と同時に活性酸素も発生させることが知られています。活性酸素は、女性はよくご存じのアンチエイジングの大敵、身体にとって有害な物質です。そのため、サンゴは共生藻から光合成産物という利益を得る代償として活性酸素によるダメージというリスクを負うことになります。
そこで、褐虫藻から得られる光合成産物やエネルギーなどを利益(ベネフィット)、褐虫藻が放出する活性酸素によるダメージを損失(コスト)とみなして、サンゴになりきって損得を考えてみましょう。褐虫藻の増加とともに得られるベネフィットは増加していくことが予想されます。しかし、光合成産物は多すぎても結局サンゴはそれを使い切れないため、ベネフィットは頭打ちになると考えられます。
横軸をサンゴが飼っている褐虫藻の数とし縦軸をベネフィットとした場合、図①aの青い曲線のようになることが予想されます。いっぽう、褐虫藻が増えれば増えるほど、活性酸素によって被るコストは図①aの赤線のように単純に増加していくと考えられます。よって、ここから得られる純益(=ベネフィット-コスト)は、図①b緑線のように、ある褐虫藻数で最大になる山型の関係性になると考えられます。褐虫藻はサンゴの中で絶えず増殖しており、サンゴはそれを排出・消化することにより、最大の利益が得られるAの位置に褐虫藻数をコントロールしていると考えられます。
さて、水温などのストレスが上昇すると、活性酸素量が増加することが知られています。つまり褐虫藻あたりのコストが上昇することになるのですが、それは図②aのようにコストの傾きが急になることを意味します。そのためコスト—ベネフィット曲線が図②bのように変化し、ベストな褐虫藻数が減少します。さらにストレスが増加し、コストが増加した場合には、もはや褐虫藻の存在は負荷でしかなくなり、褐虫藻はいないほうがマシという状態になります。白化はこのように褐虫藻数を最適値にコントロールした結果として起こる現象と考えられます。


モデル化と検証、そして予測へ


このように現象を重要なプロセスだけに絞って単純化することをモデル化といいます。私はこのモデル化という作業を通じてサンゴを取り巻くさまざまな現象を理解する研究を進めています。なぜこのような小難しいことをやっているのか? と言いますと、モデル化することによって現象の理解を深めると同時に、シミュレーションなどで将来像(いつ、どんなときに白化するのか? など)を予測しやすくするというメリットがあります。この白化現象のモデルはまだ仮説の段階ですので、無責任なようですが、今の段階では予測どころか、この話はホントかウソかすらよくわかりません(笑)。今後このモデルの検証を進める必要があるのですが、これには多くの時間とさまざまな調査・実験が必要です。もちろん、私1人でこれを行っているわけではなく、現在、「サンゴ礁学」に携わる多くの研究者と共同でモデルの検証を進めているところです。サンゴの気持ちがわかるその時を夢見て(アブない人ではありません)。



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メール:admin@coralreefscience.jp
サンゴ礁学ホームページ


文=中村 隆志
(東京工業大学 大学院情報理工学研究科・東工大特別研究員)
東北大学にて地学を専攻し博士号を取得。その後、東北大学、北海道大学にて博士研究員を経て、現在は東京工業大学にてサンゴやサンゴ礁生態系の観測やモデル化およびモデルの数値シミュレーションを用いた研究を行っています


【月刊ダイバー2012年7月号に掲載】


「サンゴ礁学とは?」
文部科学省の科学研究費の支援を受けた研究プロジェクトです。人とサンゴ礁が共生する社会を構築するための学術的な基礎をつくることを目的に、生物学・化学・地学・工学・人文社会学など、さまざまな分野の研究者65名が連携して研究を行っています。この連載では、サンゴ礁学の博士研究員や大学院生から成る「サンゴ礁学若手の会」が、それぞれの研究や専門分野における最新の研究情報をお伝えし、サンゴ礁の不思議を調べる研究の醍醐味をお伝えします。


「サンゴ礁を学問する」は月刊ダイバーにて、好評連載中です。

ほし店長