プリンセスと謎の一団の意外な関係

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海コラム

Vol.04 プリンセスと謎の一団の意外な関係

夏から秋にかけてよく見られる、これまでかりにダイバーが「プリンセス・モノクルブリーム」と呼んでいた成魚のわからなかった幼魚

ダイビングをしていてわからない魚に出会ったら、皆さんはどうやって調べているだろうか? 図鑑で調べる、ガイドさんや専門の研究者に聞く、最近ではネットで調べるかたも多いかもしれない。でもこうした方法ですぐに調べてしまうのももったいない。もう少し「わからない」というワクワクするような状況を楽しみたいし、そもそも机上で調べたことや他人に聞いただけではちと心許ない……。やっぱり実際のフィールドで自分の目で見て、自分自身で納得するのが一番いい。
「何者なのか?」を調べる方法はいろいろあるが、一番簡単なのは成長過程を追うことだ。「成長過程を追う」とか言うと、同じ個体を幼魚から成魚まで、時間をかけて成長する過程を定点観察することだと思われがちだけど、短期間に一気にその成長過程を追えるチャンスが訪れることがある。
僕が屋久島に来てすぐに「こいつら何者?」と疑問に思い、何年かの間、まったくわからなかった魚の一群があった。それは様々なポイントの中層で数百匹の大きな群れを成し、魚自体も20cm近くもある魚だったので、毎日嫌でも目に入ってくる。それでもその魚の正体はまったくわからなかった。そこそこ大きな魚で、たくさん見られるため、既知種であると思い込んでいて、図鑑にそれらしき魚が載っていないことが不思議でならなかった。ただ手がかりはあった。まず体の形などから間違いなく「キツネウオ」の仲間であること。

そしてこれだけ成魚がいれば幼魚もきっと多いはず。該当する幼魚はいた。毎年、8月くらいになると20m以深の斜面でよく見られる、当時「キツネウオ属の一種」と呼ばれ、ダイバーには「プリンセス・モノクルブリーム」の英名で呼ばれていた蛍光ブルーの体色がきれいな2~3cmくらいの魚だ。しかし、最初はこの美しい幼魚から中層で群れる地味な成魚らしき魚がどうしても想像できなかった。見た目はまったく別の魚にしか見えないからだ。その中間的なステージを見ないことにはつながらないのだ。ところが1月中旬のある日、この「プリンセス・モノクルブリーム」が夏場にたくさん見られた潮通しのいい斜面にたまたま足を延してみると、普段は中層で群れている成魚たちがなんと水底スレスレのところで群れていたのだ。よく見ると中層に群れている連中よりもやや小さく、うっすらと体に青味が残っていた。それは夏場に見られた幼魚たちが成長した姿だったのだ。
さらに周りを見渡すと、まだ「プリンセス・モノクルブリーム」だとすぐに認識できる幼魚体色の子から、見た目は成魚なのだがうっすらと体に青味が残る若魚まで、様々な成長ステージの子たちが混在して見られた。つまり、その斜面の光景をひと目見て、この魚の成長過程が一発でわかった。中層で群れる謎のキツネウオの仲間と「プリンセス・モノクルブリーム」がつながったのだ。
その後、しばらくは毎日のようにこの斜面に通ったのだが、どんどん幼魚体色の子は成長していき、最後には見た目は成魚と変わらない若魚だけが水底で群れるようになった。
その若魚たちも春になる頃には成魚が群れる中層へとその生活場所を移していった。この中層で群れる謎のキツネウオの仲間は「プリンセス・モノクルブリーム」だったのだ。
現在、この魚は屋久島で採取された個体に基づき2007年にヤクシマキツネウオという標準和名がついた。

【月刊ダイバー2013年10月号掲載】
「ふしぎの海の屋久島」は月刊ダイバーにて好評連載中です。

ほし店長