月刊ダイバー5月号「水中科学研究所(95)」追加情報

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コラムニスト:ダイバーオンライン編集部
vol.09 月刊ダイバー5月号「水中科学研究所(95)」追加情報

「月刊ダイバー」5月号の「水中科学研究所(95)」(150〜151ページ)では『フランスの減圧表』を紹介しましたが、誌面の都合上、掲載しきれなかった表と内容を追加で紹介します。

先月号(2015年4月号)で、フランスの減圧症(DCS)事情について書いたが、その事例は、海軍のものであった。フランス海軍の使っている減圧表「MN 90」(右図)について、もう少し解説しよう。

この表を眺めていて、真っ先に気がつくのは、水深が6mのところから始まっていることだ。元の表には、最大6時間(表では6hと表記されている)までの表が、繰り返し潜水記号を付して掲載されている。減圧停止は、8mまでは記載がなく、10mで6時間のダイビングの場合に、3mで1分の停止となっている。フランスはメートル法の「本家」だから、減圧表もメートル単位である。

浮上速度は、15~17m/分とされていて、いかなる場合も17m/分を超えてはいけない。空気潜水の表は、最大水深65mまでとなっていて、65mでは、5分の潜水で3mでの減圧停止3分。10分の潜水では、停止は、6mで3分+3mで8分。15分では、9mで2分+6mで5分+3mで24分である。65mへの潜水はすべて繰り返し潜水は禁止されている。ちなみに、繰り返し潜水が禁止される潜水は、水深12mでは、潜水時間5時間超え、15mで2時間超え、18mでも2時間超え、20m~28mで1時間半超え、30mと32mで1時間10分超え、35~40mで1時間越えの場合である。ここでの潜水は「箱形」なので、減圧時間が非常に長くなる。レジャーでのマルチレベルダイビングと一概に比較できないとは思うが、我々の場合も、深い潜水をした場合には繰り返し潜水に対する注意が必要だと思われる。

減圧停止水深間の浮上速度は、15~17m/分ではなくて、10秒で1mとなっている(6m/分)。1秒10cmである。現在では一般的に、9~10m/分の浮上速度(9m/分で約15cm/秒)が標準とされる傾向にあることを考えると、減圧に入るまでの浮上速度はやや速いが、減圧停止してからの速度はゆっくりの感じがする。体内の気泡を消すのに浮上速度が遅いほうがよいという考え方なのかもしれない。

この減圧表では減圧停止の際に酸素を吸うことができる。その場合の時間は、「MN 90」減圧表の減圧停止時間の2/3の時間に短縮してよいことになっている。また、潜水後に陸上で酸素を吸うこともできる。酸素を吸うことによって、繰り返し潜水で使われる「残留窒素」がどのくらい減るかを示す表も掲載されている(表2)。我が国でも、新しい減圧方法が示され、酸素を使うことが可能になることを考えると、これはおおいに参考になるだろう。

興味深いのは、この表の残留窒素の表示が、窒素分圧を示している(と思われる)点である。たとえば、表1で18mに45分間の潜水を行ったとしよう。この場合、繰り返し潜水記号は「H」となっている(表1参照)。水面に浮上して(減圧停止は不要)純酸素を吸うことにする。マスクをしっかり密着させて、デマンド式吸気バルブを用いて100%酸素を吸える環境を考えよう。

【表2】水面酸素呼吸による残留窒素の減少(一部)
(“Physiologie & Médicine de la Plongée” 2e éditionによる)

表2を見て、Hの欄を右にたどると30分で、1.06となっていることがわかる(完全に元に戻るには、2時間半程度の酸素呼吸が必要)。この窒素分圧は、空気を吸った場合の水面休息時間に換算すると約1時間になるから、酸素を吸うことでほぼ2倍の効率が得られることになる。
水面で空気を吸って水面休息時間をした場合の表も掲げておかなければ繰り返し潜水がどうなるのかわからない(表3、表4)。

【表3】水面休息による残留窒素を求める表(一部)
(“Physiologie & Médicine de la Plongée” 2e éditionによる)

【表4】残留窒素時間を求める表(一部)
(“Physiologie & Médicine de la Plongée” 2e éditionによる)

一例を挙げておく。20mで40分の潜水を行うとする。2回目は15mでやはり40分潜りたい。水面休息時間をどのくらい取ればよいだろうか、と問題を立ててみる。
①表1から、20mで40分の潜水は減圧停止不要。繰り返し潜水記号は、「H」である。一方、15mで40分潜るには、次のように考える。②15mの停止不要限界は、1h15分。40分潜るのだから、75分(1h15分)−40分=35分の残留窒素になっている必要がある。③表4の15mの欄を下にたどって、35分はないので30分を見つけて、左に行くと、残留窒素は「0.99」。④浮上後、「H」の残留窒素が0.99以下になる値を表3から見つけると、2hで「0.98」。もちろん、厳しいほうにシフトして表を引いている。
このことから、水面休息時間を2時間取れば2回目に15mで40分、減圧停止無しで潜れることがわかる。ちなみに、表2から、Hの状態で純酸素を吸えば、1時間で残留窒素は「0.97」まで落ちてくれる。酸素の有り難みがよくわかる。

減圧表の比較

「MT 92」は、フランス労働省のものだが、この減圧表の作成には、Comex社が深く関わっているようだ。こちらは、U. S. Navyと同じく3m刻みの表になっているが、このうち「ミニテーブル」という簡易表があるのでとりあえずそれを掲げておく(表5)(これは実際のダイビングでは便利そうだ)。
本欄の読者なら、すぐにこの表を使いこなせると思うが、各水深での時間で、左へ2つ目のところでは、3mで減圧停止が必要になる。停止時間は、下の欄の3mのところを見る。たとえば、水深18mなら「無減圧」で50分潜れるが、55分潜ると3mで3分の減圧停止が必要になる、といったぐあいだ。こちらの減圧表は、浮上速度が12m/分と、「MN 90」より遅くなっているが、潜水時間に関しては、「MN 90」よりやや甘い感じがする。もちろん、ヘリウム使用や酸素減圧の表もある。
(※1990年、1992年という年号を考えると、残念ながら我が国の潜水は各種ガスの利用という面ではかなり遅れていたといわざるをえないかもしれない)

【表5】フランス労働省の減圧表(一部)
(Journal Officiel de la Republique Française:1992年6月による)

・本誌では『「MN90」「MT92」、U.S.Navy.rev5、rev6の「無減圧」限界』の比較表も掲載しています。本欄と合わせてご覧ください。

ほし店長