なのりその森

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コラムニスト:須原水紀
vol2 なのりその森


「なのりその森」と呼ぶホンダワラの森

石川県・能登島の海は、夏29℃、冬は5℃と寒暖の差があるため、海の四季をはっきりと感じることができます。その季節ごとの変化を如実に表してくれるのが海の植物である海藻や海草です。
そして、海と人が共に暮らす「里海」という理想郷が存在する能登島の海中には、海藻の森が広がっています。海藻で見る四季の移り変わり、変化する海中環境、それに合わせて繰り返される生態行動など、ひとつひとつの海藻にまつわるストーリーを、能登島の海藻に魅せられたガイド・須原水紀さんが美しい写真とともに紹介します。

今年も暑かった夏。能登島、松島の海辺は色とりどりのテントが並びキャンプ客で賑わった。1日中ハンモックに寝そべる客から「1日何回潜るの?」と、忙しなく陸と水中を行き来する私に声をかけてきた。彼らにしてみれば同じ海を1日に何回も通う私たちを、さぞかし無味なこととおかしく思うだろう。しかし、私たちダイバーは海の中で繰り広げられる小さな生き物の感動的な瞬間に出会う度に、ますます貪欲に何度も同じ海に潜るほどのめり込んでゆく。
私が能登島の海にのめり込んでしまうのは、海の中でも陸で見るような植物の四季が感じられ、日本の原風景が見られるからだ。季節の移ろいが水中で感じられ、芽吹く幼い葉の可愛らしさや、枯れる間際の美しさを目にすると、今年もこの季節が来たのだと安心したりするのである。
初秋の能登島は透明度が良く、生え変わりが完了したホンダワラが新芽を伸ばし始める。「なのりその森」と呼ぶホンダワラの森の誕生である。水温が底をつくまでゆっくり、ゆっくりと背を伸ばし、水面を覆う森が形成されていくのだ。背の低い新芽で覆われた初秋の海底は果てしなく奥行があり、普段は壁のように立ちはだかる森を期間限定のコースでお客様をお連れする。言葉もなく、音もなく、ただ無言でゆっくりと泳ぐ瞑想の小路。柔らかな葉を撫でたり握ったりしながら、その感触を楽しむ。

しかし、私の初秋の楽しみは海藻だけではない。キャンプや海水浴客が去り静まり返った海辺の夜は、満天の星空を楽しむのに最高である。思い切って仰向けに寝転がり、天の川を横切る流れ星を数えながら波の音を聞いて過ごす。起き上がると水面に青白く光る星。流れ星のように光っては儚く消える。これはウミホタルである。ウミホタルは発光物質を持った甲殻類で、夏から秋、ひと気なく明かりの少ない静かな海の波打ち際に現れる。優しい月光と涼しげな風、こうして静けさを取り戻した能登島、松島で秋の夜長を楽しむ。


満点の星空とウミホタル

また、沖合にも待つものがある。ミズクラゲである。能登島周辺では6月と9月頃の年に2度、ミズクラゲの大発生を見かけることがある。それをクラゲ玉と呼んでいるのだが、何度かダイビング中に遭遇した。それはとても神秘的な体験であった。透明度の良い青の向こうから、白のレースカーテンのように柔らかになびくものがこちらの方へ近づいてくる。不思議がって見ているうちにそれは目の前に来て何者かわかった。フワフワと泳ぐというより漂う丸いクラゲ。私はいつの間にか白い空間の中にすっかり迷い込んでしまい、右も左も、上も下も、どちらに行けば良いのかわからなくなった。そして、しばらくそのゆったりとしたクラゲの鼓動と共に泳いで不思議な世界を楽しんだ。するといつの間にか出口に放り出されて、まるで夢から覚めたように見慣れた風景に戻り、異次元の白い空間は遠くへ遠くへ離れていった。


神秘的なミズクラゲの大群

慌ただしかった夏。過ぎてしまえば寂しく思うのは毎年のこと。ゆっくりと物思いにふけりながら、秋への移ろいを味わいたい。

9月~10月に「満天の星空とウミホタル撮影会」を開催しています。お問い合わせくださいませ。

コラムニスト

須原 水紀(すはら・みずき)さん
生まれ故郷である能登のダイビングサービス<能登島ダイビングリゾート>でガイドとして勤務。海藻への愛と情熱はピカイチ。また、マクロ生物も大好きで、海藻に付くマクロ生物を探し出す眼は「顕微鏡の眼力」といわれるほど。

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