ダイビングにおける「口まわり」の心配事

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コラムニスト:山見 信夫
vol2 「口まわり」の心配事


「Dr 山見のダイバーズクリニック」は、ダイビングを楽しむ上で気になる身体の問題を潜水医学の専門家で、自らダイビングインストラクターでもある山見信夫先生に解説いただいている、月刊ダイバーの好評連載です。「ダイバーオンライン」では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。第2回目は、「お口まわり」について。(月刊ダイバー2015年8月号掲載)

ダイビングをすると顎がだるくなります

—今月は、口まわりの心配事について、教えてください。先日会ったビギナーが、マウスピースをくわえると吐き気がすると悩んでいました。
山見 
そういう方は、匂いのない軟らかく小さめのマウスピースを選ぶといいでしょう。最近のマウスピースはほとんどがシリコン製で、種類も豊富になりました。マウスピースの横幅は、製品によって1㎝以上違いますし、口の奥まで入らないものもあります。いくつか試してみるといいと思います。

ーダイビング後に顎がだるくなるのはマウスピースのせいですか?
山見 
マウスピースを強く噛んで、関節や筋肉が疲労したためと考えられます。筋肉疲労がひどくなると、肩こりや頭痛、顎関節症を起こすこともあります。

ー口に合っていない?
山見 
軽く噛んだだけでセカンドステージを保持できて、無理なく口に収まるマウスピースを選んでください。

ー最近は種類が豊富ですね。
山見 
いろいろな形や硬さのものがあります。奥歯に均等に力が加わるタイプや、下顎が前に出にくいタイプは顎の負担が少ないといわれています。
材質が軟らかければ噛み心地はいいのですが、必ずしもすべての顎のトラブルが解消されるわけではありません。歯並びと口の大きさにフィットするものを選ぶことが大切になります[写真1]。


[写真1]
お湯につけて成形し、自分の歯型に合せられる、カスタマイズタイプのマウスピース。
負荷が歯に均等にかかるため顎の負担が減り、疲れにくくなるといわれている

ーほかに顎の疲れに関係することは?
山見 
セカンドステージが中圧ホースに引っ張られているため、顎に負担がかかることがあります。気になるのであれば、ファーストステージの取り付け位置をチェックしてみましょう。位置を変えると快適になることがあります。
セカンドステージと中圧ホースのジョイント部分が多方向に動くスイベル式になっているタイプは、頭を動かしても歯に均等に負荷がかかるため引っ張られる感じが少なくなります。
また、レギュレーターの中圧ホースは普通70㎝くらいですが、口の負担を軽くするために長さを変えているダイバーもいます。ラバー製ではなく軽くて軟らかい素材の中圧ホースに交換することもできます。

歯が痛くなり、潜れませんでした

ー潜降中に、歯が痛くなり潜れなかったという話を聞きました。
山見 
歯のスクイズだと思います。歯や歯の周囲に空洞があると、潜降時に圧縮され痛みが現れます。かぶせ物をしている歯や詰め物をしている歯が虫歯になったときに発生する傾向があります。歯周病や副鼻腔炎が原因のこともありますね。

ーどのくらい潜降すると症状が見られるのですか?
山見 
水深1m程度から違和感を生じ、2〜3mで痛みに変わり、水深4m以上は痛みのためにとても潜降できないということもあります。スクイズを起こしたまま潜降すると、歯の修復物が外れたり破損することもあります。
 ダイビングのときに痛みが生じたことをきっかけに歯医者さんを受診し、虫歯と空洞が見つかったという人は珍しくありません[写真2]。


[写真2]
歯の周囲にできた空洞。歯のスクイズの原因になる

ー虫歯の治療中でもダイビングはできますよね?
山見 
炎症が軽く、歯のスクイズを起こさない状態であればダイビングは可能です。歯茎などの炎症が悪化しているときは、症状が落ち着いてからにしましょう。

ー抜歯後、どのくらいでダイビングを再開してもいいのでしょうか?
山見 
腫れや痛みが取れて、出血や感染の可能性がなくなればいいでしょう。回復が順調であれば抜歯後1週間も経てば問題ありません。

ー歯茎を切開して抜歯したときは?
山見 
小さな手術をしたときは、傷がきれいに塞がり痛みや違和感がなくなってから。炎症が続いていないこと、感染がないことを確認してからになります。術後1か月を目安にします。

ー矯正中でも問題ありませんか?
山見 
痛みがなく、口がきちんと開けばダイビングはできますが、矯正中の歯に負担をかけるといけないので、マウスピースの選択には気を遣わなくてはいけません。無理なく口に入り、よくフィットするものを使いましょう。
歯並びが悪いとマウスピースを噛むときに歯や顎に偏った負担がかかります。ダイビングのためにも矯正治療は受けましょう。

ー入れ歯のトラブルもあるようです。
山見 
シニアダイバーの増加とともに、入れ歯を使っているダイバーも増えました。部分入れ歯は、マウスピースに当たって破損することがあります。きちんとフィットしていなかったり、偏って負荷がかかると起こりがちです。
また、入れ歯と歯茎の間に気泡ができてスクイズを起こすこともあります。入れ歯は歯茎にぴったり合うように作られますが、長い間使っていると隙間ができるからです。スクイズを起こすと入れ歯が強く歯茎に押しつけられ痛みを感じることもあります。潜降中に入れ歯が吸い付く感じがしたら少し緩めるようにしましょう。

ー入れ歯は外したほうがいいのですか?
山見 
部分入れ歯が外れて喉につかえて、溺れかけたケースもありました。外してダイビングするほうが安全ですが、装着しないとマウスピースをうまく噛めない場合もありますから、歯科できちんと調整してもらいましょう。

ダイビング後、顎関節症に!

ーダイビング後に顎関節症になる方がいますね。
山見 
顎関節症は、顎の筋肉がこわばり、正しくかめなくなる病気で、顎の関節に不自然な力が加わると発症します。口が開けづらい、口の開け閉めのときにカクッと音がする、顎関節が痛いなどの症状が見られます。悪化すると片側の顎が引きつって顔がゆがむこともあります。男性より女性に多く見られる病気です。

ーマウスピースの噛み方に問題が?
山見 
噛むことによって生じる歯の圧力がマウスピースに均等にかかっていないこと、強く噛み過ぎていること、下顎を前に出して前歯だけで噛んでいることなどが誘因になります。

ー顎関節症でもダイビングはできますか?
山見 
痛みがなく、口の開け閉めに問題がなければできます。

ー歯周病が悪化する人もいるようですね。
山見 
歯周病には歯肉炎と歯周炎があります。歯茎にだけ炎症がある場合を歯肉炎、骨まで溶けてしまったものを歯周炎といいます。普通、歯肉炎から始まり、進行すると歯周炎になります。タバコを吸う人や糖尿病の人に多く見られます。
ダイビングでは、ツアー中に疲労が蓄積して体調を崩し、歯周病が悪化することがあります。マウスピースが歯茎に局所的に当たり、歯周病が悪化したケースもあります[写真3]。


[写真3]
マウスピースの刺激に寄って生じた歯肉炎

ー口内炎ができるのは?
山見 
アフタ性口内炎は、ストレスなどがかかり免疫力が低下したときに発生しやすいといわれています。口腔内で細菌が増えたとき、粘膜に傷ができたときにも発症しやすくなります。
ツアー中に疲れると発症するといわれる方もいますし、マウスピースがつねに当たっている歯茎にできやすいという方もいます。

「うつる病気」が心配です

ーダイビングで口唇ヘルペスがうつることはありますか?
山見 
口唇ヘルペスは、唇周囲に潜んでいたヘルペスウイルスの活動が活発になり、水疱性の発疹が見られる病気です。免疫力が低下したときなどに発症します。ダイビングは直接的な誘因にはなりませんが、ツアー中、疲労が溜まり発症することがあります。
ヘルペスウイルスを排出しているダイバーが使った直後のマウスピースをくわえるとうつる可能性はあります。口唇ヘルペスを発症しているときはレギュレーターの使い回しはやめましょう。

ー他にも、器材を介してうつる病気がありますか?
山見 
レギュレーターやスノーケルには痰や分泌物が付着することがありますし、マスクには鼻水や鼻血が付くこともあります。そのため、ウイルスでうつる病気には注意が必要です。
ダイバーの中には唾液中にB型肝炎ウイルスを排出している方やHIVに感染している方もいます。これまで、器材を介して感染症にかかったという発表はありませんが、報告されていない感染例はあります。

ー感染を予防するには?
山見 
水洗いして十分乾かせば、ほとんどの感染は防げます。器材は流水で洗浄すること。付け置き洗いでは病原菌やウイルスを十分取り切れません。乾燥させることも重要です。

ー消毒液に浸ける必要は?
山見 
現実的ではないと思いますが、ヒビテン液などの消毒剤は有効とされています。アルコールは器材を傷める可能性があるので、不可とされています。

ーレンタル器材は、衛生面には十分配慮されるべきですね。
山見 
衛生面が気になる方は、自分用のマウスピースを持っておき、ダイビングの度に交換を。安心なのはやはりマイ器材を持つことでしょう。

ー抗菌マウスピースというのもあるようですが。
山見 
細菌が表層についていると効果があるようですが、層状にたくさん付いていると十分除菌できないといわれています。

ーバディブリージングでもうつる病気がありますか?
山見 
HIVに感染している方やB型肝炎でHBe抗原が陽性の方は、バディブリージングはしないようにしましょう。また、伝染する感染症にかかっている人は、レンタル器材を借りる際は申告してほしいですね。

コラムニスト

山見 信夫(やまみ・のぶお)先生
医療法人信愛会山見医院副院長、医学博士。宮崎県日南市生まれ。杏林大学医学部卒業。宮崎医科大学附属病院小児科、東京医科歯科大学大学院健康教育学准教授(医学部附属病院高気圧治療部併任)等を経て現職。学生時代にダイビングを始めインストラクターの資格を持つ。レジャーダイバーの減圧症治療にも詳しい。

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*サイト内では、メールによる健康相談も受けている(一部有料)

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