不健康なダイバーが水面移動中に死亡

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コラムニスト:DAN ジャパン
vol.9 不健康なダイバーが水面移動中に死亡

DANアメリカでは、メンバーから寄せられたさまざまなトラブルの報告を専門家が分析・評価してダイビングの安全に役立てているが、DAN ジャパンでは、DANアメリカの協力により、その内容を翻訳、会員に紹介している。DANジャパンに、一般公開されている事例をピックアップして紹介してもらった。
今回紹介するのは、不健康なダイバーが水面移動中に死亡してしまったケースだ。

★DANジャパンのサイトでは、30以上のインシデントレポートを掲載中
http://www.danjapan.gr.jp/incident-report/index.html

水面を移動している最中に、50歳の肥満ダイバーが心臓疾患を発症した。

報告されたケース
私は水中写真のコースを受講し、海洋実習の1本目に連れていってもらいました。担当インストラクターは、自分のダイビングクラブの友達(彼の名前をこの報告ではFFとします)も一緒に潜ってもよいかと私に聞きました。何の問題もなかったので、私は了承しました。FFは50歳、体重は280ポンド(訳注:約127kg)でした。

私たちは準備をし、岩場の多い海岸から1本目のダイビングを試みましたが、うまくいきませんでした。FFと私の2人共のウェイトが少なすぎたので、ウェイトを増やして再度潜ろうとしました。FFはブイのラインを引っ張って潜降しましたが、私はまたしても潜降できませんでした。担当インストラクターが水中からFFを呼び戻し、私はさらにウェイトを増やしました。

今度はようやく潜降ができました。そして、インストラクターは私の後ろにいたのですが、着底した時に私たちはFFがいないことに気付きました。担当インストラクターは浮上し、FFがダイビングを中止して、岸に戻ったことを確認しました。
その後、FFが借りていたレンタルの浮力調整装置(BCD)の排気ができなかったことを発見しました。彼はこの問題を、給気ホースから息を吹き込み、下にあるバルブから排気する、という方法で解決したと言っていました。

水面休息をとり、昼食を食べました。

2本目のダイビングでは、沈船に潜るために197ヤード(訳注:約180m)の長い水面移動を計画していました。FFと私は、器材をつけた所から10フィート(訳注:約3m)程離れた階段に移動しましたが、彼の息が切れていたので少し休みました。階段の下に到着し、お互いに器材をチェックした後12:20 p.m.にエントリーしました。

水面移動中、担当インストラクターは少し前を泳いでいましたが、私たちを常に確認してくれていました。FFは、ひと休みしたいと大きな声で叫びました。私の器材にケルプ(海草)が絡まり、FFが手助けして外してくれました。ケルプがない場所がほんの少しあったので、私は仰向けになって後ろ向きに泳ぎ始め、インストラクターにすぐ追いつくことが出来ました。 そして私は、FFがタンクにケルプを絡ませた状態で岩場に向かっていることに気付きました。

担当インストラクターが、FFを助けている間ここでじっとしていられるか、と私に聞きました。
私は了解し、水中で身体を楽にしました。

FFが“痛い!”というようなことを言ったのを覚えています。インストラクターがFFのケルプを外し、大丈夫かと聞いたところ、FFは大丈夫だと言いました。インストラクターは、ケルプを避けるためにレギュレーターからスノーケルに替え、自分についてくるようにと指示しました。

インストラクターが私の所にたどり着いた時、FFがケルプのある外洋に向かっていることに気付きました。なんとか注意を引こうとしましたが、その時、FFのスノーケルが水没し、左肩が前に回転したのが分かりました。

担当インストラクターは、FFは意識を失ったのか、と私に聞きました。
私は、何か変だ、と答えました。

私が先にFFに近づき、その後すぐにインストラクターが到着しました。私はFFの右腕を掴み、仰向けに回転させました。インストラクターがFFのマスクを外すと、真っ青な顔が見えました。私は脈をとりましたが、脈拍を全く感じませんでした。私がFFを曳航するので、インストラクターに岸まで泳ぐように伝えました。陸上に人がいるのが見えたので、大声で助けを求め、インストラクターは注意をひくために大きく手を振りました。
岸に近づいてから、事故者が呼吸をしておらず、脈拍もなく、顔も青いので救急車を呼んでほしい、と大声で叫びました。沢山の人が来て皆でFFを岩場に上げ、BCDを外し、胸をはだけました。何度か胸骨圧迫を試みましたが、岩場だったこともあり、安定していなかったので、うまくいきませんでした。

救急ボートが来て、FFを救助しました。
そして、島のチャンバーに送られましたが、蘇生することはできませんでした。

彼のダイビングプロフィールは、22フィート(訳注:約6.7m)に5~10分以内の1ダイブのみでした。彼はその日2本目は潜っておらず、息切れ以外は何の症状や痛みも訴えませんでした。

専門家からのコメント

このケースで、死亡原因として最も可能性があるのは、急性心臓疾患でしょう。
肥満は心臓疾患のリスク因子であり、運動能力の低さと関連することも多いです。FFは器材を装着した場所から階段までのわずか10フィート(訳注:約3m)を歩いただけで息切れしていて、運動適性を欠いていることは明白です。しかも、少し水面移動するだけで休憩しなくてはならなかったのに、ケルプに絡まってさらに疲弊しました。器材トラブルは、FFが頻繁にダイビングしておらず、スキルが十分でなかったことを示唆します。

この事故の原因は、恐らく心臓突然死でしょう。この事故者は、運動耐性が極めて低いことから、恐らく重大な冠動脈疾患があっただろうと思われます。検視解剖をすれば本当の死因が判るでしょう。
粥状動脈硬化プラーク(粥腫)の破れ、血栓が生じることによる心筋梗塞、相対的心筋低酸素症に起因する致死性不整脈を含む、多くの機序*1の可能性があります。
*1 訳注:ものごとが動いたり成り立っていたりすることの背景にある仕組み。機構。

このダイバーが危険だと警告する徴候は、たくさんありました。おそらく、日常生活で階段を2-3段昇るのも苦しかったでしょうし、その状態は運動適性がないことを明示しています。
彼はダイビングを控えるだけではなく、早急に自身の健康状態を改善する必要があったのだと思います。

- Dr. Petar J. Denoble

★インシデントレポートとは
大事にはいたらなかったが、ヒヤリとしたりハットした経験(インシデント)に関する報告書のこと。内容を分析し、類似した事例の再発や、事故の発生を防止することが主な目的。ヒヤリ・ハット報告書。

コラムニスト

DAN ジャパン(ダン・ジャパン)
〈一般財団法人 日本海洋レジャー安全・振興協会〉が行うレジャーダイビング事故者に対する緊急医療援助システム。会員になると、レジャーダイビング保険に自動的に加入。会報誌やwebサイトで潜水医学や安全に関する情報が得られる。また、海外で事故にあった場合にもスムーズに救助・搬送・治療が受けられる。

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ほし店長