土佐南西部海岸 海底遺跡 古の災害の痕跡

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コラムニスト:山本 遊児 × 宮武 正登
其の十二 土佐南西部海岸 海底遺跡 古の災害の痕跡


【散乱する石材】
無数の角柱状の石材が横たわる海底。砂中の埋没石を含めると相当な数になる

陸の遺跡とは違いまだ手つかずのものが多い水中遺跡、遺物の数々。
そんな、水中に眠る日本各地の遺物を追う。
第12回目は高知県土佐清水市竜串の爪白ビーチ。
この小さな浜の海底には、寺や神社の鳥居と思われる円柱状の大きな石材が沈んでいる。はるか昔に起きた自然災害によって、この場所に運ばれてきたとみられている。

2011年3月11日、自然の猛威が東北地方に深い爪痕を残した。数世紀に一度、海はそのすさまじい力で我々を圧倒し、積み重ねてきた営みを根こそぎ引きずり込もうと咆哮を上げる。海洋国であり地震国にして台風常襲国でもある日本の宿命として、永く記憶すべき歴史上の厄災の跡様が、この国の海底には蓄積されているのである。
そして今、忘れ去られていた古の災害の痕跡が見つかりつつある。
高知県土佐清水市竜串の爪白ビーチ。足摺岬の付け根に位置するこの四国南西部の小さな浜は、体験ダイビングや講習にも適した南国の「箱庭」といった風情を保つ。10年以上前、その穏やかな海の底で地元ダイバーが、電柱に似た直径30㎝弱の円筒形の大きな石と、細長い棒状の石が散乱している様子を発見した。


【調査の様子】
各石材の大きさや加工痕跡などを記録していく(作業中のダイバーは筆者)

目撃者の1人で、当時、〈竜串ダイビングセンター〉の代表だった浜口和也さんの協力を受け、筆者らが日本財団助成「海の文化遺産総合調査プロジェクト」の一環として同所にエントリーしたのは2009年の晩夏であった。礫混じりの砂原に岩塊が点在する水深4〜6mの海底には、長さ1〜1・8m、幅20㎝前後、厚さ15〜20㎝の細長い角柱状の石が幾つも点在していた。そして、そのうちの数基の石には、「矢」と称する鉄製くさびを使って裁断加工した際の痕跡(矢穴)が明瞭に残されていた。その大きさ(幅3〜5㎝程度)や平面形状の特徴から、江戸時代中・後期以後の「矢穴」と見なせる。すぐ近くのガレ場では石製の盥の一部と見られる遺物も見つかった。


【矢穴】石材表面上の規
石材表面上の規則的に並んだクサビ(矢)の跡に砂が乗っている

つまりこれらは、寺や神社等にあった建物の基礎(地覆石)ないし階段石や手水鉢と推測でき、目撃情報にある円柱状の大きな石材とは石の鳥居である可能性が高まってきた。鳥居ならば造立年号や寄進者など、海没原因の解明に役立つ多くの情報が刻まれている。ところが、その肝心の円柱石がどうしても見つからない。不思議なことだが、この数年の環境変化により海底の砂の堆積が急増したとの地元証言もあり、完全に砂没してしまったのかもしれない。 では、かつての海岸間際にあった寺社が、境内ごと海に没するような事態がありえたのだろうか。土佐地方は宝永4(1707)年と嘉永7(1854)年の2度、南海沖を震源とするM8クラスの地震に見舞われ、どちらも津波と地盤沈下が現地を直撃している。加えて、幾度も来襲した台風による高波被害や豪雨が招いた土石流なども想定できるだろう。


【石の盥】
神社で参拝前の手洗いに使う手水鉢の底角の部分か。遺跡の性格を暗示する

かつて筆者は、本誌の連載「海底の文化遺産」(2002年11月号)で、鎌倉市の和賀江島などの天変地異により海没した人工構造物の例の稀少さを紹介したことがある。未だ認知数が少ない災害海底遺跡は、今後の我が国の防災対策にとって重要な情報を与えてくれる。静かな土佐竜串に眠るこの遺跡候補地に正確な学術的評価を与えるためにも、例の円柱状の石材が再び姿を現したとの情報が到来するのを、今も心待ちにしている。

考古学3つの原則

「遺物には触らない」「遺物を動かさない」「遺物を取り上げない」 考古学では何がどこにどのようにあるかを確認することがもっとも重要です。3つの原則を守り、遺物かな? と思うものがありましたら、月刊ダイバー編集部までお知らせください! >>hp@diver-web.jp

コラムニスト

写真=山本 遊児 (やまもと・ゆうじ)さん

水中文化遺産カメラマン/アジア水中考古学研究所撮影調査技師/水中考古学研究所研究員/南西諸島水中考古学会会員/The International Research Institute for Archaeology and Ethnology 研究員

>>this is the link with your pubblication...under your Picture: http://membership9.wix.com/iriae#!yamamoto-biografia/cddr
>>月刊ダイバーで連載中


文・解説=宮武 正登 (みやたけ・まさと)さん

佐賀大学全学教育機構教授。専門は日本中世史、歴史考古学、水中考古学。日本考古学協会・国史学会会員。研究の合間に九州の海でガイドも。ダイビング歴33年(BSACクラブインストラクター)

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