凶悪なサーフゾーンでエントリー 荒波の中はまるで洗濯機

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アドバイザー:我妻 亨
vol.3 凶悪なサーフゾーンでエントリー 荒波の中はまるで洗濯機

危機からの脱出第3回メインイメージ

月刊ダイバーの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。
<ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。更新は、毎月奇数週(第1・3・5週)の火曜日!
実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。
第3回目は、海況のよくない中でのエントリーで、荒れ狂う高波にのまれてパニック状態になったケースです。

凶悪なサーフゾーンでエントリー 荒波の中はまるで洗濯機

ダイビング歴2年目のSさん(60本/女性)。

とある岩場のビーチポイントで、海況のよくない中でのエントリー。荒れ狂う高波にのまれてパニック状態になった体験をご紹介します。

以下はダイバー本人の体験談です。
私は約2年前にCカードを取得してから、月に1度のペースで伊豆に潜りに行っている伊豆派ダイバーです。経験本数も50本を超え「そろそろダイナミックなポイントに潜ってみたい」と、7月のある日、東伊豆のビーチポイントに潜りに行くことになりました。 そこはいつもダイバーでにぎわっている、東伊豆でも有名なダイビングスポット。しかし、もともとビーチでのエントリーが苦手な私は、いつも泳ぎ出すタイミングがわからず、水面移動でも毎回息が上がるなど、不安要素をたくさん抱えていました。
このポイントのエントリー口は岩場でスロープ状になっており、ダイバーはそこから波打ち際を越えてエントリーするスタイル。ブリーフィングで説明を受けながら、見るとその日は波も高く、エントリー口に並ぶダイバーを容赦なく高波が襲っている様子が見えました。
「あんな所からエントリーするの?」いつも以上に不安感が膨らむ中、荒波を越えていく際の注意点やコツについて、インストラクターから説明を受けます。しかし、その間にも一人のダイバーが荒波に翻弄されるのを目の当たりにしてしまいました。波間に身体がグルグル回転しているのが見え、陸で待機していたスタッフが引き上げます。「私もあんなふうになったらどうしよう。怖い……」インストラクターのアドバイスも上の空で、大きな不安と緊張感に襲われながらも、いざ準備をしてエントリー口へと向かいます。

準備に手間取りグループの後方に

スロープ沿いの岩壁にはロープが張られていて、ダイバーはそれにつかまりながら順番にエントリーするようです。しかしながらスロープの先は相変わらず、打ち寄せる荒波と岩壁からはね返る波とが乱流する、凶暴なサーフゾーンと化し、見ているだけで足がすくみます。
皆で一列になって、まずはフィンを履き、マスクを装着。私は緊張していたのもあって、マスクの曇り止めを流してくるのを忘れ、そのうえフィンのストラップがきつすぎて調整に時間がかかってしまいました。
インストラクターのすぐ後ろを陣取るつもりが、私を入れてゲストダイバーが5人いたのですが、けっきょくグループの後ろのほうに並ぶことになってしまいました。ブリーフィングの際、「不安なかたは僕が泳ぎ出す場所とタイミングをよく見て、同じように泳ぎ出してみてくださいね」と言っていたインストラクター。「この順番ではよく見えないし、どうしたらいいんだろう」さらに緊張が高まります。

足がすくんで、あと一歩が踏み出せない

BCにエアを入れて、レギュレーターをくわえ、ロープにつかまりながらカニ歩きで一歩一歩、荒れ狂う波打ち際に近づいていきます。気づくと前の人が泳ぎ出し始め、うまい具合にサーフゾーンを抜けて一気に沖へと泳いで行きました。「次は私の番だ!」と気合いを入れます。すでにひざの辺りまで海に浸かっていて、あと少し前に出て泳ぎ出せば行けるかも、と思うのですが、足がすくんでどうしても、そのあと一歩が踏み出せないのです。
そんな中でも容赦なく高波が私の身体を襲います。何度も波を見送りながら、後ろにずらりと待っているダイバーのプレッシャーがさらに私を追い込み、ますます動けません。
そうこうしていると、私はやってきた高波に足を取られ、ロープから手が放れ、アッという間に波にさらわれてしまったようでした。まさに洗濯機の中にいるような感覚で、マスクが上にずれ、大量の水がマスクに入ってきました。「く、苦しい……」身体のコントロールが利かず、手足をジタバタさせながらも、荒れ狂う波に激しく振り回されるしかない私は、完全にパニック状態に陥っていました。

マスクがずれて鼻からも大量の水

視界も遮られ、鼻からは大量の水が入ってきて、レギュレーターも外れそうなほど。「もうダメだ! 誰か早く助けて!」心の中で叫びながらも、身体は上下左右も関係なく翻弄され続けます。一瞬、誰かが「レギュをしっかりくわえて〜!」と叫ぶ声が遠くで聞こえ、私はとっさに両手でレギュレーターをしっかりと押さえました。
その後も足が水面に上がったような感覚、一回転したような感覚。そして、スロープの岩場の上に身体が思いっ切り打ち返されて、全身を打った感覚。それでも荒波は私を解放してくれず、引きずり回します。そして再び大きな波で私の身体がスロープの上に打ち返されたところで、後ろに並んでいた現地のスタッフのかたが、私の腕をつかんで、波打ち際から一気に引き上げてくれました。 私はマスクとレギュを取ってその場に倒れ込み、息苦しさとパニックから過呼吸ぎみ。片足のフィンが脱げていたようで、スタッフのかたが回収してきてくれます。横になっているうちに呼吸も落ち着き、鼻に海水が入った痛さと、岩場に打ち付けられた右腕の打ち身は感じられましたが、他には身体の異常は見られず、安堵感で涙が止まりませんでした。しかし、そこでもう一度エントリーしてダイビングをする気にはなれず、その日はリタイア。その後もそのポイントへの恐怖心は消えず、まだ怖くて行くことができません。

PADIコースディレクターからのコメント

ビーチエントリー&エグジットは、 波の周期を把握することから始まる

荒波のビーチエントリー。誰もが少なからず緊張する場面です。トラブルの原因は、恐怖感と不安感に翻弄され、普段ならできることができなくなってしまったことでしょう。ステップを踏んで、スタッフからの指示どおりにできていればパニックにはならなかったはずです。
ビーチエントリーでは、まずはしっかりと波を見て大きさや周期を知ることから始まります。大きな波が来たときには、重心を落として身体を安定させ、やり過ごします。水深がひざ〜腰くらいに達したら、波が引くタイミングに合わせて一気に泳ぎ出します。 今回は、初めて体験する波の高さ。サポートを受けることも考えて、インストラクターのすぐ後ろにつけるよう、事前に伝えておくべきでした。どのラインを通って、どのタイミングで泳ぎ出せばいいのか、前の人を観察しておくことも大切です。波にはかならず大小の周期があります。エントリーでもエグジットでも、焦らず、そのタイミングを把握しましょう。

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アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

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