睡眠不足でのディープダイブ 水深37mで視界が真っ白に

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アドバイザー:我妻 亨
vol.9 睡眠不足でのディープダイブ 水深37mで視界が真っ白に

危機からの脱出第9回メインイメージ

月刊ダイバーの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。
<ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。更新は、毎月奇数週(第1・3・5週)の火曜日!
実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。
第9回目は、睡眠不足のなか行ったディープダイビングで初めて窒素酔いしてしまったケースです。

睡眠不足でのディープダイブ 水深37mで視界が真っ白に

ダイビング歴4年のSさん(80本/女性)

残業続きの過密スケジュールの中でサイパンへ旅立ち、1本目の水深30mオーバーで、初めて窒素酔いになった体験をご紹介します。

以下はダイバー本人の体験談です。
私がサイパンでダイバーになってからまる4年。すでにアドバンスも取得し、これといったトラブルにも見舞われず、最大水深40mまで潜った経験も積んでいました。その時は窒素酔いにもかからずに深場を楽しめ、「自分はタフなダイバーだ!」と思っていました。サイパンやセブ島など、南国のリゾートの海を中心に潜っていたのですが、仕事の関係で1年ほど前から旅行にも出かけられずにいました。そんな昨秋、たまりかねた私は4度目のサイパンへ、1人で潜りに行くことを決めました。
とはいえ、長期的な休暇が取れず、週末+半休という強行突破です。金曜日夜に成田を出発してサイパンに深夜入り、2日潜って、月曜日早朝には帰国、というスケジュールで行くしかありません。仕事は山積みで、出発日までは連日遅くまで残業し、当日も成田に行くギリギリまで仕事をして飛行機に飛び乗ったのでした。
現地に到着し、ホテルに入ったのは夜中の2時。サイパンは行き慣れた場所だったので、少しくらい無理をしても平気だろうと思い、ビールを2杯ほど飲んで、4時前に眠りに就きました。

ヘルフリッチ目当てで、1本目から深場へ

ダイビング初日は午後から2ビーチの予定だったので、朝9時までは眠ることができました。目が覚めた時、風邪を引いたような身体のだるさを感じましたが、カーテンを開けると抜けるような青空が目に入り、久しぶりのリゾートにテンションは上がります。
利用するサービスはOW時代からお世話になっている所です。準備を進めながら、当日担当してくれるガイドに「グロット」のリクエストを伝えると「今日は海況もいいので、1本目からグロットに行きましょうか! 体調、だいじょうぶですか?」と聞かれました。私は思わず「だいじょうぶです!」過労や睡眠不足のことなどすっかり忘れ、興奮ぎみに答えました。
「グロット」の入り口に到着すると、すでに多くのダイバーでにぎわっていました。ガイドの話では、外洋の水深30mちょっとの所にヘルフリッチがいるとのこと。写真でしか見たことがないと伝えると「では1本目はヘルフリッチ狙いで、深場に行ってみましょう」ということになりました。

激しい動悸に続き、視界にも異変。手足もしびれ始めた!

その日のゲストは4人。私は同じく1人で来ていた男性とバディを組みました。早速器材を背負って111段の階段を下りました。水面は穏やかでENもスムーズ。みんなで潜降し、1年ぶりに見る青光に感動を覚えながら、私たちはガイドに付いて穴から外洋に出ました。流れは弱く、壁沿いに水深を下げていくと、横穴の中でホバリングしているヘルフリッチを発見しました。「本物だ!」と思ういっぽう、少し妙な感覚にも襲われ、水深を見ると37m。一瞬ドキッとしましたが「40mまで行ったこともあるんだから!」と自分に言い聞かせ、初めてのヘルフリッチをじっくり観察します。
しかし、深いのであまり長居もできず「そろそろ上に戻りましょう」という合図で移動し始めた、その時です。急に心臓の鼓動が激しくなり、ドクッドクッと脈打つ感覚を全身で感じるようになりました。同時に呼吸も苦しくなり、不規則に乱れてきたかと思うと、猛烈な恐怖感に襲われたのです。それは今までに感じたことのない感覚でした。「とりあえず誰かに知らせたい!」と思い、バディやガイドを探しますが、みんなはすでに水深を上げて10mは離れていました。「どうしよう……」動悸が激しくなる中、今度は視界もおかしくなってきました。目の前に白い斑点のようなものが見え始め、そのうち視野がキューッと狭くなり、しまいには目の前が真っ白になったのです。手足にはしびれも感じてきて、自分がどう動いているかもわからない状況です。「もうダメだ、死ぬ!」本気でそう思いました。

ガイドに身体を支えられ、すべての症状が消えた!?

どのくらい経ったか、しばらくすると真っ白だった視界は不思議と元に戻ってきました。そして、こちらを見ていたガイドと目が合い、私は一目散にガイドの所へとダッシュしました。何かを察したガイドも駆け寄り、私の腕をつかんで身体をホールドしてくれます。ホッとしたところでふと気づくと、動悸、息苦しさ、しびれなど、すべてはうそのように消えていたのです。「どうしたの?」という顔でのぞき込むガイドに「なんでもないです……」と合図し、そのまま何事もなかったかのようにドーム内に戻り、無事にEXできたのでした。
EX後、その時のことをガイドに尋ねられ、状況を報告したところ「窒素酔いだったのでは?」という結論に至りました。フィンはなんとか動かせていたようで、少しずつ浮上できたため症状も治まったのだろうとのことでした。過労や無理な条件が重なったためか、以前は40mでもならなかった窒素酔いにかかったのです。自分はタフだと過信してきたものの、それは見当違いもいいところです。今後は体調を万全にして潜りに行けるよう、心がけたいと思っています。

PADIコースディレクターからのコメント

窒素酔いは体調に左右される 異変を感じたら速やかに浅場へ

睡眠不足と過労のダブルパンチの状況で30mオーバーのダイビングは、無謀としか言いようがありません。そのような体調で器材を背負い、長い階段を下りたのでは、相当な負担がかかったはずです。視界の異常や手足のしびれは、明らかに窒素の影響。「窒素酔い」は、深く潜ればなる可能性は当然高まります。
窒素酔いになった場合、浅場へ戻ることが、状況を悪化させないための唯一の方法です。ダイコンや水深計の読み取りがおかしいと思ったとき、普段と何か違うなと感じたときには、すでに窒素の影響が出ています。以前に経験した深度であっても、体調で左右されるのです。違和感があったら、バディと離れないように注意し、速やかに浅場へ移動してください。
今回のような強行スケジュールで潜るのなら、最初は浅いのんびりしたポイントから。深いハードなダイビングで呼吸数が増えると、窒素の影響が強く出ます。体調を万全にすることが楽しいダイビングの最初のステップです。

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アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

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