レギュレーターリカバリー 波酔いと圧迫感から水中嘔吐 安全なダイビングのために Vol.11

DIVERの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。 <ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。 実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。

レギュレーターリカバリー 波酔いと圧迫感から水中嘔吐

Cカードを取ったばかりのWさん(4本/女性)

講習1本目の水面移動で波酔いしてしまい、ドライスーツの窮屈感などから吐き気に襲われ、水中で吐いてしまった体験をご紹介します。

以下はダイバー本人の体験談です。
昔から海が好きだった私は、つきあっている彼の誘いでCカードを取ることになり、2月にOW講習を申し込みました。とはいえ、泳ぎは苦手で乗り物酔いもひどく、ダイビングをするにはさまざまな不安がありました。プール講習ではトラブルもなく潜れたのですが、海洋講習の前日は緊張してほとんど眠れずじまい。睡眠時間は2〜3時間のまま出発しました。

実習初日の天候は晴れ。少し風が強かったのですが、講習場所の海は大きな湾になっていて、波はそれほどではありません。私は朝食も食べずに車酔い防止の酔い止め薬を飲んだきりでしたが、彼の勧めでサンドウイッチを2切れ食べてから準備を始めました。

極度の緊張で水面移動から波酔い

その日の講習生は、私と彼を含めて4人。1本目は「ロープ潜降をした後、レギュレーターリカバリーとフィンピボットの2つをやってみましょう」と言うインストラクター。ブリーフィングを受けた後、ドライスーツを着用します。レンタルのスーツはプール講習時と同じものでしたが、なぜかその日は首回りに圧迫感がありました。「こないだと同じはずなのに首がきつい」と彼に訴えると「太った?」と笑われて終わりましたが、器材を背負うのにしゃがんだりすると苦しくてたまりません。しかし、また笑われるのも恥ずかしく、我慢したまま海へとエントリーして行きました。

水中は予想外の茶色で「こんなの、見失ったら終わりだ!」スーツで締めつけられる息苦しさと、透視度の悪さで恐怖心が膨らみます。そんな中、数十メートル先のブイまで、みんなでスノーケルでゆっくりと水面移動を始めました。

水面は「波がある」とは言えない程度でしたが、私には揺れているように感じます。自分が泳ぐことで揺れている感覚になったのかもしれませんが、すぐに酔ってしまう私は数メートル進んだだけで「気持ち悪い……」と思い始めました。しかし我慢することしかできず、必死に泳いでいきます。

なんとかブイに到着したものの、あまりに不安そうな顔をしていたのか、インストラクターが「先に2人の潜降に付き添って上がってくるので、それまで彼とブイにつかまって休んでいてください」と気遣ってくれます。私は気持ち悪いことを考えないよう、彼とビーチを見ながらたわいのない会話をして過ごしました。インストラクターが浮上し、どうにか呼吸も整った私は潜降を開始しました。

給気しても苦しいまま水深7mの海底で吐き気がどんどん悪化

耳抜きに少々手こずったものの、ロープをたどりながらなんとか水深7mの水底に到着。胸が圧迫されるような違和感を覚えていると「ドライに給気して」との合図をもらい、慌てて給気します。しかし、食道や首回りの締めつけ感からは解放されず「なんでこんなに苦しいの? 早く上がりたい」そればかり考えていました。

水底では4人横一列に並んでひざ立ちになり、「まずはレギュレーターリカバリーをしてみましょう」という合図で、左端の人から順番に始めます。私は左から3番目。しかし、待っている間も息苦しさと胸部に感じる違和感から気持ち悪さはどんどん悪化。しまいには吐き気を催してきました。「どうしよう!!」水中での吐き方を知らなかった私は「水中で吐く=息ができない」という最悪のシナリオを思い描いていました。

レギュを外した瞬間に我慢の限界!

私の番が来て、吐きそうな気持ちをどう伝えていいかもわからず、インストラクターを目の前に、レギュレーターを恐る恐る外しました。口から息を出せば吐いてしまいそうなほどせっぱ詰まっていた私は、息を止めたままレギュレーターから手を離し、右肩を落としながら右手でホースを探そうとした、その時です。我慢ができなくなり、その場で吐いてしまいました。息もできず、吐きながらパニック状態で「水面に出たい!」とっさに上に向かおうともがき始めました。

しかし目の前で一部始終を見ていたインストラクターが即座に私の口にオクトパスを押し込み、パージボタンを押してくれます。しかし、苦しくて咳込む私。インストラクターは私の後頭部とレギュレーターをしっかりホールドした状態で、少しずつ水面に向かって浮上していきます。私はただただ身を任せ、咳と息苦しさとで気絶しそうでした。水面に出るとマスクとレギュレーターを外して咳に苦しみ続けましたが、少しずつ呼吸を落ち着かせることができました。ブイで待っていると、インストラクターが水底にいる3人を浮上させて、1本目はそのままエグジットすることになりました。

幸い、大事には至りませんでしたが、恐怖心が消えなかった私は彼と2人、その2日間の講習を断念し、1か月後にあらためて海洋講習を行うことになりました。2度目の講習でもトラウマもありましたが、彼やインストラクターのおかげで無事に終了し、なんとかCカードを取得することができたのでした。

PADIコースディレクターからのコメント

レギュレーター呼吸での嘔吐は、落ち着いて対処すればだいじょうぶ

無理をしてでもがんばろうという気持ちが招いたちょっとしたトラブルです。不安と緊張で睡眠不足。ドライスーツの圧迫感に透明度の悪い海。さまざまな要素が原因となっています。口で呼吸することで、胃へ空気を飲み込んでしまったことも吐き気の原因かもしれません。

レギュ呼吸をしているときに吐きたくなったら、落ち着いて息を吸ってレギュを外し、吐いてください。ただそれだけ。そして、またレギュをくわえ直しクリア。口の中が気持ち悪ければ、海水を口に含んでうがいをしてください。レギュをくわえたまま吐いてしまったら、レギュを水中でよく洗いましょう。水中で吐いても死んでしまうことはないです。

違和感や不安感があるときは、インストラクターにきちんと伝えてください。ドライスーツもプールで使用したものと同じということは、首部分のシールの位置やセッティングできつい感じは、なくせたかもしれません。

トラブル脱出体験談募集中! >>edit@diver-web.jp

内容を簡単に記入のうえ、本誌「危機からの脱出係」まで。ハガキ、封書、FAXでも応募可。採用のかたはこちらから連絡いたします。

 

 

アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん

静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/

AUTHOR

Koga

DIVER ONLINE 編集部

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