ホテイウオの奇妙な名前

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コラムニスト:須原水紀
vol.18 ホテイウオの奇妙な名前

大寒を迎える頃になれば、能登半島はどっぷりと冬型の気圧配置に入り、かえって能登島の海は穏やかになる日が多くなる。特に私が潜っている島の東部は、沖出しの風が吹くと透明度も上がる。水温は8℃まで下がり、さすがに生き物の姿もあまり見かけなくなる。

この時期は海藻が勢いを増して成長し、葉の大きさも大ぶりになる。ギンポやベラがその葉に包まるようにして隠れ、心地よさそうにしている。そんな冬眠している魚たちを不意に起しては驚かせながら、葉っぱに眠るいきものを観察している。冷たい水中ではそんなに動き回らずに、海藻の葉を一枚ずつ丁寧にめくって遊ぶ。すると、とてつもなく小さな瞳にぶつかることがある。目を細めて顔を近づけて見ると、それは小さな魚の子供であるとわかる。おたまじゃくしのようなヒョロリとしたしっぽが左右に動き、しかし葉っぱの表面にしっかりと張り付いている。これはホテイウオの幼魚である。

ホテイウオ幼魚の写真
ホテイウオ幼魚

最も寒くなる大寒を迎える時期に、ホテイウオの成魚が漁師の網に入りだす。時にはお腹に卵をもったまま揚げられることもあるそうだ。ホテイウオは岩の隙間に卵を産み付けるそうだが、ぶ厚く覆われた海藻の下にある岩の隙間に潜り込んでしまうため、どのような繁殖行動が行われているかは、めったに見られるものではない。それだけに、幼魚を見つけた時には、この身を切るような冷たい水中で行われるホテイウオの生態行動に興味がそそられるのである。

さて、このホテイウオだが、能登島では奇妙な呼び名で呼ばれていることが分かった。私がタンクを水面に出してはホンダワラに絡まりながらもがいていると、小舟に乗ってナマコを捕りに来た漁師に声をかけられた。

「何か探しとらんか?」

「ホテイウオを探してるんですが、この辺にはいないですか。」

「おお。イワシババか。そんなもん、その辺にいっぱいおるやろいや。」

「イワシババ???」。「鰯」から来ているとも思えないが、「ババ」という接尾語には何かしらの想像を掻き立てられる。どの漁師さんに尋ねても、村のおばあちゃんに聞いてみてもこの名で通っている。一体どういう所以かは未だわからない。魚の地方名には方言や、地域の人々の文化からくる想像が隠されていそうで、イワシババに関しては何か面白いストーリーがあるのではないかと思うと、更にこの魚への興味がわいてくる。

コラムニスト

須原 水紀(すはら・みずき)さん
生まれ故郷である能登のダイビングサービス<能登島ダイビングリゾート>でガイドとして勤務。海藻への愛と情熱はピカイチ。また、マクロ生物も大好きで、海藻に付くマクロ生物を探し出す眼は「顕微鏡の眼力」といわれるほど。

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