40mのディープダイビング 窒素酔いで足首のけがも麻痺 安全なダイビングのために Vol.13

DIVERの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。 <ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。 実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。

40mのディープダイビング 窒素酔いで足首のけがも麻痺

仲間同士で深場の生物を狙おうとディープダイビングを行ったIさん(120本/女性)

水深30mを超えたあたりから窒素酔いの症状に見舞われ、急浮上しようとした体験をご紹介します。

以下はダイバー本人の体験談です。
私は6年前、44歳で夫といっしょに伊豆でCカードを取得し、現在は経験本数も100本を超えました。私がこの体験をしたのは2年前の7月のこと。その頃、夫と私はカメラやストロボなどを揃えて本格的に水中写真を始めたばかり。「ウエットの時期になったら、生物相も豊富な伊豆海洋公園の『2の根』に行ってみたいね」と話していました。7月に入り、私たちは計画を立て、インストラクター認定を持つ夫の先輩Nさんの引率で、夫と私、友人2名の計5人で東伊豆へと向かいました。

右足でフィンを蹴り下ろした瞬間 むき出しの足首に激痛

その日は快晴で、海況も穏やか。透明度も15mという絶好のダイビング日和でした。サービスのスタッフに生物情報を聞いてみると、私たちが行こうとしている「2の根」の深場に「クチナシツノザヤウミウシがいるかも」という話。とてもレアなウミウシで、私たちは興奮しながら準備を進めます。

1本目は深場に行くため、14Lタンクを使用します。伊豆海洋公園には何度も潜ったことがありましたが、「2の根」に行くのは初めてです。長い距離を泳がなければならないようで、体力的に不安もありました。最大水深も40mまで行くので、窒素酔いの可能性も否めません。私は最大35mでも窒素酔いにはなりませんでしたが、今回は40mという深さ。少し緊張しながら、夫とバディを組んでENしていきました。

潜降後、Nさんを先頭に浅瀬をゆっくりと進みます。10分くらい泳いで、「2の根」のトップに到着。私は少し息が上がったような苦しさを覚えつつ「でも、これからが本番!」と気合いを入れます。Nさんが「ここから下に降りていくよ」と合図を出したので、そこから1人ずつ、水底に見える砂地を目指して、岩壁沿いに深度を下げていきました。

私は岩につかまって深呼吸しながら呼吸を整えていましたが、「早く行かなきゃ」と、右足でフィンを大きく蹴り降ろした、その時です。ガリガリッ!……足首を岩にぶつけ、激痛が走りました。私はくるぶしまでのショートブーツを履いていて、数センチほど足首がむき出しになっており、そこに岩肌をぶつけてしまったのです。見ると細かい傷跡と赤い血がにじんでいます。しかし岩にぶつけただけでなく、何かに刺されたような異様な痛み。「なんか、変?」奇妙に痛む足首を気にしながらも、夫の後を追いかけて、焦りながら深場へと進んでいきました。

水深30mを超え、動悸が激しく視界が一気に狭まる

水深20m、30mと進むと、深度のせいか呼吸もさっきより苦しいようで、恐怖心が増していくのを感じました。あれは水深30mを超えたあたりだったでしょうか。さきほどまで足首が妙にズキズキと痛んでいたのが、ウソのようにスーッと消えたのです。「あれ? 痛みが消えた」と喜んだのもつかの間、今度は心臓がドキドキしてきて、呼吸の荒さも増してきます。そうかと思えば、夫が2人に重なって見えたり、周りからキューッと視界が狭まるような気がしました。「なんだろう、これは……。目が見えなくなる!?」手足の感覚がなくなるような異変も覚え、夫に訴えようとした私は、レギュをくわえたまま「ワァーッ!」と叫びながら、無意識に手を振り回していました。身体がどんどん沈んでいくようでもあり、「このままでは、海の底に引きずり込まれる!」そんな幻覚に襲われました。

その時のことはあまりよく覚えていないのですが、後から夫に聞いたところによると、私は水深40mあたりから、垂直に水面に向かって浮上しようとしていたようです。足はもつれながらも必死にフィンキックをしていたそうです。冷静に考えると、ほんとうに恐ろしい行為です。その時は、それほどまでに理性を失っていたのです。

異変に気づいた夫に身を委ねて浮上 足首は腫れあがる

完全にパニックになった様子を見ていた夫は私に駆け寄り「いっしょに浮上しよう」と合図をくれました。夫が側に来てくれたことで安心し、ゆっくりと浮上してくれている夫に身を委ねます。気づくと、Nさんたちも私を囲みながらいっしょに浮上してくれています。Nさんは「このまま戻ろう」という合図をくれます。浮上していくと、視界や感覚の異常は消えていましたが、逆に足首の傷がズキズキと痛み始めました。疑問を抱きつつ、仲間たちのサポートのおかげで、無事にEXすることができました。

EX後、深場で起こった症状は窒素酔いと判明。けがをした足首は、いつの間にかぷっくりと腫れ上がっていました。その様子から、岩ではなくヤギか何かに当たったようでした。すぐに消毒してもらい、突然痛みが消えたことも話すと「浅場に上がってきたら痛みが戻ったってことは、窒素酔いで感覚が麻痺して、痛みが消えていたのかもね」と言われました。

結局1本目は何も見ることなく終わり、私は足のけがもあって2本目はリタイア。夫たち4人は、2本目でたっぷり「2の根」を楽しんできたようでした。

PADIコースディレクターからのコメント

通常より控えめ&ゆっくりが基本 異変時はすぐにバディのサポートを

ご自身で気づいているとおり、深いダイビングでの窒素酔いです。窒素の影響を受けると。視野が狭くなるような感覚、お酒に酔っているような感じ、楽観的になったり自信過剰になったりすることもあります。水中での窒素の影響(窒素酔い)は、体調、体格、経験などによってかなり個人差があります。経験したことのある深度でも、別のときには窒素酔いになるということもあります。

ディープダイビングのときは、落ち着いてゆっくり呼吸をします。途中でなにか違和感があったら、それ以上の深度へ行くのはやめ、徐々に浅場へ。また、つねにバディの近くにいること。今回は、サポートが受けられたので助かった事例です。

ある程度の深度になったら、窒素の影響はあるものだと考えてください。ディープダイビングでは、深度や周囲に気をつけることが通常より必要になります。潜降のスピードや水中での移動スピードなどはいつもより控えめにゆっくりと。バディシステムを確実に。

トラブル脱出体験談募集中! >>edit@diver-web.jp

内容を簡単に記入のうえ、本誌「危機からの脱出係」まで。ハガキ、封書、FAXでも応募可。採用のかたはこちらから連絡いたします。

 

アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん

静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

>> ダイブテリーズ/DIVE TERRY’S
http://www.terrys.jp/

AUTHOR

Koga

DIVER ONLINE 編集部

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