減圧停止中に1人取り残されまさかのエア切れ

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アドバイザー:我妻 亨
vol.23 減圧停止中に1人取り残されまさかのエア切れ

DIVERの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。
<ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。
実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。

減圧停止中に1人取り残されまさかのエア切れ

ダイビング歴6年のYさん(120本/男性)

サイパン屈指の洞窟ポイントで写真撮影に夢中になりすぎてDECO表示を出し、減圧停止中にエア切れとなった体験をご紹介します。

以下はダイバー本人の体験談です。
宮古島でCカードを取得した僕は、初ファンダイブで宮古を代表する洞窟ポイントを潜り、地形ダイブの虜になりました。それからというもの妻と2人、国内や海外の洞窟ポイントなどを巡りながらダイビングを楽しんでいます。そしてこれは去年の11月、サイパンに行った時の体験です。

「グロット」は僕がずっとあこがれていたポイントでした。ダイビング初日、興奮ぎみに現地スタッフにその熱意を伝えると、1本目に行くことになりました。この日のゲストは僕と妻の2人きり。比較的早い時間だったためか他のグループもおらず、天下の「グロット」を貸し切りで潜ります。1本目は40分、僕はカメラを片手に広いドーム内を行ったり来たりしながら、3人でグロットブルーを堪能しました。

貸し切りの「グロット」 2本目も撮影に没頭

1ダイブを大満足で終えたものの、あまりの美しさに1本では物足りません。写真もマニュアル撮影を練習していたため、もう一度トライしたくなり、2本目もここで潜りたいとガイドにお願いしました。そして1時間くらいのインターバルを挟んで、再び「グロット」にENした僕たち。今度は穴から外洋に出て15分ほど泳いだ後、ふたたび洞窟の中に戻りました。それから僕はいちばん大きな三角穴の前に陣取り、再び写真に集中。妻は中層に浮きながら、洞窟の眺めと浮遊感を満喫しています。ガイドも少し離れた背後から僕たちを見守ってくれていました。

僕がいたのは水深19m。今思えば「グロット」は水深が深いこと、2本続けて平均水深を深めに潜っていることを意識できていたらよかったのですが、この時は自己管理も怠っていて、限界が来たらガイドが教えてくれるだろうと思っていました。

写真を撮り続けて20分程度経った頃、ふとコンピュータのアラーム音が耳に入ってきました。いつから鳴っていたか、まったく気づかないほど写真に没頭していた僕は、「浮上速度アラームが鳴ってるのか?」と思い、そのまま写真を撮り続けました。しかしピーピーピーピーいっこうに鳴り止まない警告音。「なんだろう?」と思いコンピュータの画面を見た瞬間、背筋が凍りつきました。鳴っていたアラームは浮上速度警告ではなく、DECOアラームだったのです。初めて見るDECO表示で、知識も乏しかった僕は「DECO=減圧症」と思い込み、「鳴ってたのはDECOアラームだ! 減圧症になってしまった!!」

鳴り続けたDECOアラーム 3m10分での減圧停止

後ろを振り返ると、ガイドと妻は何事もない様子。自分1人だけがDECOを出してしまったと悟ると、よけいに自分の身体が怖くて怖くてたまりません。慌ててガイドに駆け寄り、そっとコンピュータを見せるとガイドもビックリした表情を見せました。そしてコンピュータの指示どおり、3mに10分の減圧停止をするようにと言われます。DECOの出ていない妻とガイドは通常の安全停止をするようです。私はすでにロープなしの安全停止ができるはずが、この時は頭もパニックで身体のバランスも思うように取れず、3m地点でロープにしがみつきながら減圧停止をしていました。

3分が経ち、ガイドは「奥さんを連れて先に上がるから、減圧停止が終わったら浮上してきて」と伝えてきます。水深3mとはいえ、1人で取り残される不安の中、2人はEXしていきました。

10分の減圧停止で残圧がわずか10。周りには誰もいない

恐ろしいことに、僕はそこで初めて残圧をチェックし、その目を疑いました。なんと、残圧計の針は10を切っています。「これじゃ10分も持たない! 減圧停止を終えずに上がったらどうなる!?」恐怖からか、ほんとうに減圧症の症状が出ていたのか、残圧を知ったと同時に手足がビリビリとしびれ始めました。ガイドも先にEXしてしまったため、この危機的状況を知らせることも、エアをもらうこともできません。自分のエアが持つ限り留まるしか手段はなく、震えながらロープにしがみつき、ただただコンピュータのカウントダウンを凝視するのみ。呼吸を極力抑えながら8分くらいが経ったとき、エアが重く、呼吸が渋くなるのを感じ、残圧計を見るとついにその針はゼロに。「もうダメだ!!」減圧停止10分を終えることなく急浮上してしまいました。水面に頭を出した瞬間、レギュレーターとマスクを外して溺れそうになりながらも、そのままロープ伝いに必死にEXしました。

ガイドはEXを手伝ってくれながら、青白くなった僕の顔を見てとても心配してくれましたが、エア切れで減圧停止を完了していないことは恥ずかしくて伝えられず「だいじょうぶ」とだけしか言えませんでした。午後からは3本目を潜る予定でしたが、もちろんキャンセル。減圧症にかかっていたかどうかはわかりませんが、水中で感じた手足のしびれはその日のうちに消えたので、2日目も2本潜って帰国しました。それ以後、僕は異常にコンピュータを確認するようになりました。

PADIコースディレクターからのコメント

DECO=減圧症発症ではない。正しい知識と自己管理の徹底を

DECOが必要と表示されても、すぐに減圧症の発症につながるわけではありません。また、ダイブコンピュータの多くは、DECO表示になる前から警告をしてくれます。無減圧潜水時間をこまめに確認し、DECO表示が出ないように潜ることが前提です。万一表示が出ても、落ち着いて通常の呼吸を意識して、コンピュータに表示された水深までゆっくりと浮上して停止してください。体験者のかたが置かれた状況でのエア切れは、浮上することが優先されますが、急浮上ではなく、可能な限りゆっくりと。

減圧停止をしているゲストを残して、タンク圧の確認もせずにガイドがEXしたことも問題ですが、体験者のかたにもこのトラブルを回避する手段はありました。ダイビング開始前にプランを立て、そのプランに従うこと。プランを人任せにせず、実行されていることを自分で確認すること。コンピュータやゲージの確認は、自分の責任で行うこと。コンピュータの表示の意味、使用する意義を理解すること。こうした基本を大切にしてください。

トラブル脱出体験談募集中! >>edit@diver-web.jp

内容を簡単に記入のうえ、本誌「危機からの脱出係」まで。ハガキ、封書、FAXでも応募可。採用のかたはこちらから連絡いたします。

アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

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