パラオの激流にギブアップ 水深16mからの急浮上

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アドバイザー:我妻 亨
vol.30 パラオの激流にギブアップ 水深16mからの急浮上

DIVERの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。
<ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。
実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。

パラオの激流にギブアップ 水深16mからの急浮上

ダイビング歴3年のTさん(60本/女性)

パラオで激流に逆らって泳ぎ続けたものの中層で1人取り残され、急浮上した体験をご紹介します。

以下はダイバー本人の体験談です。

50代で始めたダイビング。海は好きだったものの水への恐怖心があった私は、長い間ストレスダイバーでした。以前も水中でマスククリアができず、急浮上したことがありました。でもその時のインストラクターに「レギュレーターさえくわえていれば死ぬことはない」と教えてもらい、それから少しずつ恐怖心を払拭できていました。そうして50本を越えた去年の9月、夫と憧れのパラオに潜りに行きました。

ダイビング初日は流れもなく穏やかで、絶好の潜水日和。しかし2日目は曇りで風も強く、悪天候でした。ダイビングは2日間の予定で、初日に「ブルーコーナー」で潜れなかったので「今日はどうしても潜りたい」とリクエスト。この日はじょじょに天気が悪化するとのことで、1本目に「ブルーコーナー」を目指しました。

念願の「ブルーコーナー」 水中は想像以上の激流

ポイントに到着すると「流れはありますが行ってみましょう!」と、ガイドがブリーフィングを始めます。しかしあんなに楽しみにしていたのに、「流れがある」と聞いてたちまち不安感に襲われた私は、ガイドの話も右から左。そんな中あの教訓を思い出し、「レギュさえくわえていれば」と自分に言い聞かせながら、ENしました。

ところが、水中は思った以上の激流で、潜降ロープもたわむほどの強さです。「えっ、こんなの無理!」不安がいっきに膨らむものの、自分が止まれば後ろが詰まってしまう……仕方なくロープにしがみつきながら潜降しました。

この日のメンバーは夫と私、他2名のダイバーで、初日と同じ4名でした。水底で全員が集合すると、「少し泳いで僕についてきて」とガイドからの指示。しかし、進むのは流れに逆らう方向。「こんな激流に逆らうの!?」私は恐怖にひるみつつも、夫といっしょにロープから手を離し、その後を追いました。ガイド、夫、私の順で激流の中を必死にフィンキックしますが、ほとんど進みません。おまけに前方から容赦なく来る流れにレギュも飛ばされそうで、セカンドステージを手で押さえます。そんな中、ガイドはどんどん進んでいくのに、後に続く私たちはいっこうに追い付けずにいました。

泳いでも進まない!息が乱れて沈めない!中層で取り残される

どのくらいダッシュし続けたか、それでもガイドとの距離はどんどん離れ、そのうち私はついに息が切れてきました。目の前の夫もギブアップ寸前のようで、眼下の棚につかまろうと潜降し始めました。それを見て、私も水深を下げようと試みます。しかし呼吸が乱れすぎて耳抜きのタイミングがつかめず、潜降できません。激しい流れに向かってキックを続け、耳抜きのために体勢を立てるとまたすぐに流される、の繰り返し。頭も混乱したままジタバタするしかできません。苦しさのあまり、浮上したい衝動にも駆られるものの、水深を見ると16m。そこからの浮上が危険なことはわかっていました。

そうして中層で立ち往生する私の下では、夫が岩につかまり、ひたすら呼吸を整えている様子です。いっぽうフィンキックし続ける私は体力も限界、気づけば呼吸が感じたことのない速さになっており、恐怖に追い打ちをかけてきます。さらに残りの2人にもどんどん追い抜かれ、1人取り残されたような不安が押し寄せてきた次の瞬間、「もうダメだ、上がる!」完全にパニックに陥った私は、水面に向かっていました。

水深16mからの急浮上 飛び出した水面は大海原のど真ん中

流されるまま水深を上げ、夫たちからもどんどん遠ざかるのがわかります。底知れぬ恐怖とあまりの苦しさで、レギュレーターも外したい衝動に駆られました。しかし「このレギュだけは守らないと」と苦しさに耐えながら、ただただ水面を目指し続けました。

浮上速度を気にしている余裕はなかったのですが、水面までずいぶん長くかかり、やっとの思いで水面に到着。BCに給気しながら顔を出すと同時に、マスクとレギュを外します。すでに息は荒く速く、呼吸困難のような症状。しかもそこは大海原のど真ん中。苦しみを堪えながら一人でボートを探そう思ったやさき、ガイドが夫たち3人を連れて10mくらい離れた場所に浮上してきてくれました。

夫たちは私の方に泳ぎながら、皆でホイッスルを鳴らしてボートを呼びます。安堵感から急に涙がボロボロこぼれる私の側で、心配そうな夫とガイドが深呼吸を促します。私は涙で苦しさが増す中船を待ち、なんとかEXしました。

急浮上だったため、私はひとまず純酸素を吸って休みました。ガイドは気まずそうにしていましたが、とくに謝罪などはありませんでした。夫は私を心配して、これ以上のダイビングは中止に。幸い、危険な症状は見られませんでしたが、その後は島に戻り、ホテルで安静に過ごしました。今回は結果的に「何があってもレギュレーターだけは外さない」という教訓が、私を救ってくれたと思っています。しかし、また新たなトラウマが残ってしまい、あれからしばらく潜れずにいます。

PADIコースディレクターからのコメント

自分の限界を超えた無理はしない
ブリーフィングで不安は解消する

流れていることで気持ちが焦り、ご自身の限界を超えた潮の流れで、力尽きたのでしょう。「泳げない、進めない、潜降できない」で無理だと思ったら、諦めてゆっくり浮上しましょう。浮上したらBCに空気を入れ、ボートに拾ってもらいます。そのため、緊急用シグナルグッズを必ず携行してください。

ブリーフィング時、ガイドからはもう少し詳しい説明が欲しいところですが、ゲストの立場からも不安があれば事前に伝え、コンディションによってはキャンセルする気持ちの余裕も持ちましょう。「せっかく来たから潜りたい」という気持ちもわかりますが、ときには自分で状況判断する必要もあります。

今回の体験談では中層の移動でしたが、流れがある場所でのダイビングでは、中層よりも水底近くを移動することである程度流れを回避できます。水底近くならつかまって休むこともできます。ダイビングは時には体力的にハードになりうるものです。普段から身体を動かして、運動しておくといいでしょう。

トラブル脱出体験談募集中! >>edit@diver-web.jp

内容を簡単に記入のうえ、本誌「危機からの脱出係」まで。ハガキ、封書、FAXでも応募可。採用のかたはこちらから連絡いたします。

アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

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