下方に横に、容赦ない激流 窮地をタオルに救われた

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アドバイザー:我妻 亨
vol.34 下方に横に、容赦ない激流 窮地をタオルに救われた

DIVERの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。
<ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。
実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。

下方に横に、容赦ない激流 窮地をタオルに救われた

ダイビング歴18年のIさん(350本/男性)

パラオの「ブルーコーナー」でダウンカレントにつかまり、一気に深場に引きずり込まれた後、棚上でも激流に翻弄された危機体験をご紹介します。

これは10年ほど前、僕がパラオの「ブルーコーナー」で体験した出来事です。その頃、僕は毎年パラオを訪れており、この時は4回目。当時の彼女とダイビング仲間2人、合計4人で潜りに行きました。利用するのは毎回お世話になるショップで、スタッフも顔なじみ。2日目のこの日は1本目に「ブルーコーナー」を潜ります。天候は快晴で風や波もない、絶好のダイビング日和。ゲストは僕たち4人だけで、僕と仲間2人は150本前後、彼女はまだ100本未満でした。しかし僕たちが「ブルーコーナー」を何度も潜っているからか、ガイドは「フリー潜降でENしてドリフトします」くらいの簡単な説明でブリーフィングを済ませ、さっそくENしました。

水深35mにいきなり引きずり込まれた!

EN地点はほとんど流れもなく、全員でスムーズに潜降し、棚の先端を目指します。数分すると先端が見えてきて、壁際に近寄っていくと、身体がふわっと下に引っ張られる感覚がありました。「ん?なんか棚が上にあがったような気が……」しかしまだ1〜2m沈んだだけなので、素早く棚に上がろうとフィンキックを強めます。ところが、蹴っても蹴っても身体は沈むばかり。懸命にキックするも、棚上から3〜4m沈んだ頃だったでしょうか。突然、下向きの引力がグワンと強くなったかと思うと、一瞬にして棚上が遠ざかっていくではありませんか!どうやらダウンカレントにつかまってしまったようです。僕たちは一気に深みに引きずり込まれ、ガイドは必死に「BCに給気して!」とサインを出しています。カレントにつかまる前で水深15m前後はあったので、急降下でも耳抜きは問題なくできましたが、後でコンピュータを確認すると、水深35mまであっという間に沈んでいました。

棚縁からは4〜5m離れていたので、壁につかまることもできません。僕たちはBCに給気しながら、ただひたすら上を目指して必死にフィンキック。しかし深度はいっこうに上がらず、ふと見ると自分の吐いた泡が目の前でグルグル留まったかと思えば、下方向に沈んでいきます。それを見た瞬間、恐怖から全身の血の気が引いていきました。それでも気力を奮い立たせてBCをパンパンにし、力いっぱいキックし続けてなんとか水深を保てる程度。僕は横にいた彼女の手をつかみ、ガイドを探します。するとガイドは棚から離れた沖に向かっていて「こっちに来い!」と僕たちを呼んでいました。僕は彼女を後ろから押しながら、上ではなく横に移動して沖を目指します。僕は彼女と2人分の抵抗を受け、進むにもひと苦労でした。

先端に向かうにつれ、身体が後方に吹き飛ぶ

10分はダウンカレントと闘ったでしょうか。皆が脱出できたところで残圧を確認すると、全員まだ100以上残っています。そこで再度、ダウンカレントを迂回した違うルートで棚にアプローチし、今度は無事に棚上に到着しました。

ところが、先端に向かうにつれて今度は沖から棚に向かってくる横向きの流れを感じます。恐る恐る進んでいると、またしても突然強い流れが僕たちを襲い、フッキングをする暇もなくあっという間に内陸方向に吹き飛ばされたのです。みんな瞬時に海底をつかみ、なんとか身体を固定しますが、それでも激流が容赦なく身体を後方に引っ張り、つかんだ岩もゴロゴロと転がる始末。彼女も自力では止まっていられず、僕は右手で自分、左手で彼女を支えます。

指がちぎれそう!ガイドが差し出した救世主のタオル

しかし流れはますます強くなるばかり。もはや男の僕でも自力では支え切れず、グローブをしていても手が痛くて指もちぎれそうなほど。身体も海底に何度となく激突します。そこへガイドが寄ってきて、BCから2枚のタオルを取り出し、「タオルの端を海底にひっかけて身体を支えて!」と僕と彼女に渡してきました。半信半疑で試してみると、驚くほどびくともしません。身体が浮くので海底にもぶつからず、手の痛みからも解放され、ずいぶん楽に身体を支えることができました。

その後「少しずつ後ろに下がろう」という指示を受け、僕と彼女はタオルをたわませ、いったん海底から外しては少し後ろでまたひっかける……を繰り返しながら後進します。他の2人はタオルがなく、素手で海底をつかみながらついて来ていました。そうして先端からずいぶん後退し、少し流れが弱まったところで、皆でいっせいに手を放します。全員で流れに乗りながら水深を上げ、そのまま短めの安全停止をして、水面に浮上しました。

EX後の僕の残圧は、ほぼゼロ。ダウンカレントで100近くは消費しましたが、その後は水中を楽しむことなく流れに翻弄されて浮上、というジェットコースターダイビングでしたが、200もあった空気がたった30分で空になるなんて……。さすがにみんなの疲労が激しく、2本目はキャンセル。長めの水面休息をとった後、水深の浅い穏やかなポイントでもう1本潜り、その日のダイビングを終えました。

PADIコースディレクターからのコメント

カレントにつかまったら、浮力確保し、身体を固定する

ポピュラーなポイントの場合、ダウンカレントが起こりそうな場所というのは既知であることが多いはず。カレントの予測が足りなかったことが1つの原因でしょう。カレントを予測していたなら、壁から4〜5mの距離を取るのは離れすぎです。また、人を引っ張って二度もカレントの中を泳いだことによる疲労が重なったようです。

カレントにつかまった場合の対処法は、浮力を確保し、身体を固定してそれ以上引っ張られないように何かにつかまること。タオルも1つの方法ですが、身体を固定するカレントフックなどのアイテムも便利です。

ダウンカレントは急深な海底地形で発生します。エアが上に行かない、渦を巻くなど、通常では考えられない方向に行きます。何かにつかまって周囲を見渡し、エアの動きを観察してから移動方向を決めます。地形をよく見て、根などのカレントの発生している所から離れれば激流は消えますが、そこまでの浮力コントロールに注意が必要です。

トラブル脱出体験談募集中! >>edit@diver-web.jp

内容を簡単に記入のうえ、本誌「危機からの脱出係」まで。ハガキ、封書、FAXでも応募可。採用のかたはこちらから連絡いたします。

アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

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