バディ・ブリージング中にレギュを奪われたまま急浮上

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アドバイザー:我妻 亨
vol.35 バディ・ブリージング中にレギュを奪われたまま急浮上

DIVERの長期好評連載「危機からの脱出」では、読者の方から寄せられたさまざまなトラブル脱出体験談をPADIコースディレクターが分析・評価し、ご紹介しています。
<ダイバーオンライン>では、読み損ねた方や振り返って知りたい方のために、バックナンバーを連載でご紹介。
実際にあったトラブルから学べることはたくさんあります。自分ならどうするか、考えながら読んでみてくださいね。

バディ・ブリージング中にレギュを奪われたまま急浮上

ダイビング歴8年のHさん(270本/女性)

友人のCカード講習に付き添いバディブリージングを練習中、友人にレギュレーターを奪われたまま危険な急浮上をした体験をご紹介します。

8年前に伊豆でCカードを取得した当時、私は月に1回のペースで潜りに行っていました。この体験は7年前に、そんな私の誘いでダイビングを始めることになった、友人YさんのOW講習に付き添ったときの出来事です。

彼女の講習は、その頃私がお世話になっていたインストラクターにお願いし、Yさんと私、インストラクターの3人で海洋実習に出かけました。ポイントは西伊豆・大瀬崎。天候は晴れ、波もない穏やかな海況で、ビーチはたくさんのダイバーでにぎわっていました。

大量の海水を誤飲!友人はせき込みながらレギュレーターを独占

当日のYさんは、プール講習で息苦しさを感じたストレスから、ひどく緊張している様子でした。しかし1本目を無事に潜ることができ、2本目はマスククリアとフィンピボット、バディ・ブリージングの練習です。1つのレギュレーターを2人で交互に使用するバディ・ブリージングでは、私も相手役になるので、手順をしっかり確認しながら2本目へと向かいました。

EN後は3人でゆっくり潜降し、水深10mの砂地に着底します。そのままYさんが2つのスキル練習を終えると、私と向かい合ってバディ・ブリージングを始めました。まずYさんがエア切れの合図を出したので、私も大きくひと息吸い込み、レギュレーターをYさんの口元に持っていきました。ところが、私のレギュレーターにくわえ直したYさんは次の瞬間、目を大きく見開いて喉を詰まらせたような表情を見せたかと思うと、苦しそうにせき込み始めたのです。EN前、「セカンドステージをくわえたら、まずは吐き出すこと」と説明があったものの、彼女はくわえたとたんに吸い込み、セカンドステージ内の海水を思い切り誤飲してしまったようでした。前かがみになりながらせき込むYさん。しばらく様子を見ながら待っていたのですが、何もくわえていない私は、息こらえも限界寸前。いっぽう彼女は乱れた周期で呼吸を繰り返しながら、レギュレーターを握りしめています。「だいじょうぶかな? でも私も息、続かない……」

その間、実際は十数秒だったかもしれませんが、私にはとても長い時間に感じられました。最初は口から少しずつ息を吐き出していたものの、それもできなくなり、顔がうっ血する感覚を感じ始めます。後から思えば、自分のオクトパスをくわえれば良かったのですが、そんな考えが浮かぶ余裕もなく、思考も完全に停止……ただひたすら息をこらえるしかできません。あまりの息苦しさから、意識まで遠のき始め、視界が白けてきたようにも見えました。

意識が遠のき始め、息こらえも限界値に

「ダメ、もう限界、どうしよう……」そう思ったやさき、私は無意識にYさんの口からセカンドステージを奪い取っていました。ようやく呼吸を確保した私は、すばやくパージボタンを押して排水したあと、肺いっぱいに大きくひと息吸い込みます。かと思うと、ふたたびYさんが私のセカンドステージに手を伸ばし、強引に奪い取っていきました。この時はお互いに自分のことしか考えられず、2人ともパニック状態が加速……オクトパスがあることも忘れて、ただただ1つのレギュレーターを奪い合うことに必死になっていたのです。

インストラクターはすぐ側でただ傍観するだけで、私たちを止めるそぶりはありません。そうして強引なバディ・ブリージングが何度となく続いた後、Yさんがふたたび私のレギュレーターを奪った、その時です。パニックが頂点に達したYさんは、私のレギュレーターをくわえたまま、水面へとダッシュし始めてしまったのです。

パニック状態の友人はレギュを奪い急浮上 たちまち自分も宙吊りに

私は息もできず、Yさんが浮上し始めるにつれて身体ごと引っ張られてたちまち宙づり状態に。息を止めたままの急浮上は危険にもかかわらず、彼女は猛ダッシュで水面に向かいます。そこでようやくインストラクターも焦った様子で、オクトパスを私の口元に押し込み、Yさんと私の腕をつかんで止めてくれました。2〜3mの浮上だったので、ゆっくり水底に戻り、そのまま深呼吸をするように指示されます。Yさんはそれでも私のレギュレーターをくわえたまま離さず、私たちは顔がくっつきそうな距離で呼吸を整えました。数分後、少し落ち着いたYさんはようやく、インストラクターに手渡された自分のレギュレーターにくわえ直しましたが、せきが続き、息苦しさも訴えたため、そのままEXしました。

EX後は、お互い苦しくて死にそうだったことを話すと、インストラクターは「そんなに深刻な感じには見えなかったよ〜」と軽く笑っていました。たしかに端から見れば、少し乱暴に交換し合う程度にしか見えなかったかもしれません。いざとなれば、Yさんは自分のレギュレーター、私はオクトパスを吸えば安全に呼吸を確保できたのですから。しかしYさんは、この体験から水中での恐怖心が増し、講習はなんとか修了したものの、その後は1本も潜ることなく、今に至っています。

PADIコースディレクターからのコメント

レギュが外れた状態ではオクトパスの位置をつねに確認

Yさんがバディ・ブリージングだけではなく、ダイビングスキルそのものが落ち着いてできるレベル、いわゆるマスターできるレベルに到達する前に、海洋実習になったのでしょう。そのため、レギュレーターを外すのが怖く、パニック状態になったようです。

体験者のかたは、講習の付き合いとはいえ、口からレギュレーターが外れている状況では、つねにオクトパスの位置を確認することを忘れないでください。バディ・ブリージングのスキルチェックにはなりませんが、呼吸が苦しいときにはオクトパスを使って普通に呼吸しましょう。そうすれば、Yさんのパニックに引っ張られた急浮上でも、ご自身の息を吐き続けられたはずです。慌てず冷静に対処してください。

ちなみに、現在のPADIのOW講習ではバディ・ブリージングは、オクトパスの普及などから、必須ではなくなりました。やるかどうかは、担当インストラクターの判断で、オプションスキルです。

トラブル脱出体験談募集中! >>edit@diver-web.jp

内容を簡単に記入のうえ、本誌「危機からの脱出係」まで。ハガキ、封書、FAXでも応募可。採用のかたはこちらから連絡いたします。

アドバイザー

我妻 亨(わがつま・とおる)さん
静岡県・浜松市のダイビングショップ<ダイブテリーズ>のオーナー。世界中のPADIプロフェッショナルの1%にも及ばないPADIコースディレクターの資格を有する。ダイビング歴35年、数々のダイバーのトレーニングや育成に携わっている。

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